JPCA NEWS 1998.4

JPCA Home / Back / Menu / 次号

「遠い景色」

 「夕暮れのバス停でバスを待つ人たちは、皆うつむいて地面を見ている。一年のうちでもめったに見られないきれいな夕焼けが広がっているのに、それを見ている人がいない。」と椎名誠がどこかに書いていました。今日の仕事やこれから帰る家のことをあれこれ考えたり、あるいは何も考えずぼんやりているうち、ふと顔をあげて、燃えるような夕焼けの広がる中に黒い山の稜線がくっきり浮かぶ光景を見て思わずハッとする、といった経験が誰にもあるでしょう。こんな時私はあの山に登ってみないといつも思います。最近はウオーキングが大変盛んです。なかでも尾瀬は人気がありますが、人気の秘密は水芭蕉、日光キスゲ、座禅草だけでなく、唱歌の歌詞「...はるかな尾瀬、遠い空」が人の心をかき立てることもあるように思います。

 このところ政治や経済の先行きがみえません。さらに荒れる子供や失業の増加などもあってなんとなくの不安が広がっています。そしてマスコミや識者は「誰が悪い、やり方が悪い、ああすべきだ、こうすべきだ、日本はダメだ、日本人はだめだ」と言い立てます。その一つひとつにはそれぞれ理屈があってなるほどと思うのですが、どうも気を滅入らせるような記事が多く、みんなを元気づけるものが少ないように思います。これでは日本の景気も良くなるわけがないでしょう。日本人は中国人や韓国人と比べても先行きを悲観的にみるといいます。経済的な条件は日本よりきびしいのにこれらの国の人たちは将来にずっと明るい希望をもっているのです。ドラッカーは「日本人はなぜそんなに悲観するのか」といい、「日本の直面する最大の問題は経済でなく社会的な変化だ」としています(96.11.5日経)。日本人の不安の原因はこの社会的な変化が怖いためかもしれません。

 これからの社会的な変化として次の点は確かでしょう。

(1) 高齢化が急速に進み、子供が減り、働く人が減ってくる。
(2) ゴミの捨て場がなくなり、リサイクルはまったなし。機器の寿命は長くなる。
(3) 規制緩和、グロ−バル化で所得、生活レベルの格差がひろがる。外国人が増える。
(4) 多様化と速い変化で、誰もがますます忙しくなる。規模メリットは相対的に低下する。
(5) 技術も社会的な変化としてとりあげれば、ソフトウェアの優位とディジタル化。

 企業が将来を予測するとき、その手法は過去の推移と技術進歩の見通しが中心になります。しかしこのアプローチでは予測の範囲はせいぜい5年まででしょう。それから先は全く見えないのです。ケイ線で株価を予測するようなものだと思います。しかし10年単位で見ればエレクトロニクスやプリント回路も上に挙げたような社会的な変化に沿って産業構造が変わって行くのは確実です。技術の先端は今後も高密度化、高機能化が進むでしょうが、エレクトロニクス全体としてはこのような社会変化に対応し、その要請にこたえる形に産業構造を変えていかなければならないでしょう。

 このような視点から本欄では、エレクトロニクスやプリント回路産業が長いレンジで見てどう変わり、また次の世代に「持続可能な社会」を残していけるのか、そもそも「持続可能な社会」とはどんな社会なのかについて、筆者が日頃感じていることをとりとめなく述べてみたいと思います。きびしい経済環境の中で日夜苦労されている読者にとっては「うちの会社」の今日の受注、資金繰り、品質対策で頭が一杯でしょう。しかし一日の仕事が終わった後、ボヤーッと夕焼けの山のかなたを眺めていると、今日一日のことが遠い過去のことのように思われ、また明日への元気が出てくるのではないでしょうか。

JPCA Home / Back / Menu / 次号


社団法人日本プリント回路工業会
Japan Printed Circuit Association