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「修理と再生」

 筆者のノートパソコンがときどき不調になります。液晶画面がみだれて全面縞模様になるのです。パソコンショップのサービス窓口に持ち込んで修理を頼んだら、受付氏は現物は見もせず、こちらが説明した症状を1行足らずに書いて終わり。しばらくして「故障個所がみつからない。間欠不良が問題になるならマザーボードを交換するしかない。その場合費用は7万円」といってきました。「何たる無責任」と思ったのでメーカーの修理担当に直接連絡し、「故障が特定できないからマザーボードをまるごと交換し、全額請求するとは何ごとか。この部品が悪かったから交換しました、その部品代とサービス費用がいくらです、というのなら納得するのに」と苦情をいいました。修理担当者は「お話はよく分かります。この場合は一晩パソコンを走らせたが異常が出なかったので調べようがありませんでした。故障が再現できれば故障個所の特定までやります」ときちんとした返事があったのでこちらも了解しました。結局、修理は見送り、だましだまし使っているうちに原因がマザーボードではなく液晶パネルの接触不良らしいと分かってきました。液晶パネルの縁を押さえると正常に戻るのです。おかげで作成中のデータが死んで頭にくることはなくなりました。

新品に比べて修理費が高すぎる、対応が悪いという不満はよく聞かれます[1][2]。私が接触したメーカーの修理担当者はみなまじめで優秀に思えるのにどこかがおかしいのです。結局、メーカーの仕組み、流通の仕組みが「新品を売る」ようにできていて、手間と費用のかかる修理は二の次になっているせいだと思います。「修理するより買い換えてくれ。それの方が安上がりです」というセリフをよく聞かされましたが、時代は変わりました。省資源、環境保全から、ものは安易に捨てられないし、捨てることに「心の痛み」を感ずる時代になりました[3]。ここにきて電子機器業界、建設業界などで「修理」、「再生」に向けた取り組みが急速に高まってきています。これは大変いいことですが、心配もあります。住宅や機器の寿命が伸びて、新築、新品の売れ行きが減ることです。魅力ある新しい用途を創り出す努力はつづけられるでしょうが、早晩量的に飽和するのは明らかです。一方、規制緩和で国内外の垣根はなくなっていきます。小さくなるパイをめぐって国際的な競争が一層激しくなるでしょう。このような状況になったとき、電子機器はどう変わり、プリント板業界はどう対応していくべきでしょうか。全体に「サービス」の比重が高まり、商品選択の基準は「価格」から「安心」の方向にシフトしていくでしょう。修理や再生も「おまけ」や「奉仕」ではなく「ビジネス」になってくるでしょう。そして、長く使う、修理して使う時代になると、品質を中心とした日本の強みがまた復活するものと筆者は信じています。以下はこれからの電子機器が目指すべき方向についての筆者の私見です。

1)電子機器の各部を意識的に「取り替え部品」と「取り替えない部品」に分ける。
 建築関係に「サポート」、「インフィル」という用語があります。「サポート」は建物の柱や壁などの駆体を、「インフィル」は内装を指します。しっかりした「サポート」を作っておき、年代や用途に合わせて間取り、内装などの「インフィル」を変更し、長い世代にわたって建物を使えるようにしようという設計の考え方です。このような設計により100年以上使える住宅を作ろうという計画が今進められています[4]。

 電子機器にもこの考えを取り入れ、部品を「一生取り替えない部品(サポート)」と「取り替え部品(インフィル)」に意識的に分けて、信頼性、コストの目標値を別々に設定するのが良いと思います。「サポート」部は高信頼性、長寿命のインフラを担い、「インフィル」は多様な用途、時代の変化に対応できるよう取り替え可能とするのです。このように分類したときマザーボードやコネクター、ソケットはサポートに入るでしょう。かつての電子機器は各部の役割が比較的分かれていましたが、最近のノートパソコンや携帯機器ではマザーボードにたくさんの部品が高密度にはんだで直付けされていて、街のパソコンショップでは全く手が出せないものとなりました。メーカーでも修理は簡単でなさそうです。これをもっと「ばらせる構造」の設計にしようというのです。

2)部品の交換単位を小さく、安くする。
 故障した修理不能の部品は廃棄となります。廃棄物の量を減らすには今のパソコンマザーボードは大きすぎ、ユーザーの費用負担も7万円では高すぎます。もっと小さい単位まで、できれば街の電気屋さんでも分解できるようになることが望ましいと思います。何もかも1つにまとめることは、全体をコンパクトに、安くはできるでしょうが、汎用性が失われ、再生、再利用とも不利となり、よほど量産にならない限り経済的とはいえないでしょう。セットの商品寿命は短く、専用部品の寿命もセットの寿命を超えられません。これに比べ汎用部品の寿命は長く、再利用も可能です。

 寿命の長い部品と短い部品を一緒にしないことも重要です。従来のコピー機で寿命の長いモーターと寿命の短いプラスチック歯車が一体部品となっていたのを、設計変更により歯車だけ交換できるようにした事例をテレビで紹介していました。設計変更で改善できる部分は非常に大きいと思います。

 さて、電子機器がこのように変わったとき、プリント板はどうなるでしょうか。「サポート」部に属するプリント板、コネクター、ソケットに対してはあらためて品質、信頼性の要求が高まってくるでしょう。低コストは第一の条件ですが、単に購入価格が安いだけでなく、修理費用、廃棄費用を含めた「ライフサイクルコスト」が低いことが求められます。今「品質は当たり前、コストが優先」といわれますが、ある修理技術者は「最近の製品品質は確実に低下している」といっていました。品質は決して横並びではないのです。

[1]日経98.6.20「修理体制の充実を」山根一真
7,8年前に買った17インチモニターが故障した。画面調整スイッチが機能しなくなっただけだが修理に出したところ「修理費8万円」といってきた。新品を買っておつりのくる値段だ」。「愛用してきた某社のスキャナー、原稿読みとりガラスの裏側が汚れてきた。自分ではずせぬ構造なので清掃整備を依頼したら「4万円」という。3万円でより高性能のスキャナーが買えるのに。
[2]朝日「声」欄98.6.9 「ゴミと化した愛用の洗濯機」
21年前の洗濯機。排水弁のゴム部品の老化で漏水。「古すぎて、部品の在庫がない」との理由で他の部分は全く正常なのに廃棄物と化した。寿命の短い部品の供給期間に限度があり、その寿命が即、製品寿命となる現実が改善されない限り、ゴミは増え続ける。
[3]筆者は修理費が新品価格の半分なら修理して使うことにしています。2回以上修理することになれば新品を買った方が得との意見もあるでしょう。しかし大部分の電子部品は20年ほども寿命があるそうです。1,2個の不良個所が残っているため故障を起こすので、その部分を修理すれば全体の信頼性はかえって上がる場合が多いと思います。
[4]日経97.11.8 「住宅寿命を100年以上に」NKKや東大などが実験プロジェクトを
建物の柱や壁など駆体(くたい)と内装を分離した住宅を目指す。駆体(サポート)と内装(インフィル)の頭文字をとって「SI住宅」と呼ばれ、骨組みに新材料を採用して耐火性、耐久性を高め、建物の寿命を100年以上に伸ばす。内部の間仕切りは脱着可能にして間取りの変更を容易にするほか、あらかじめ各部屋に配管を通しておきトイレや台所の位置を自由に変えられる設計にする。これにより、欧米の石造りの建物のように建物を壊さずに内装工事だけで長期にわたり様々な用途に使える建物を実現していく。

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社団法人日本プリント回路工業会
Japan Printed Circuit Association