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「経済白書拾い読み」

 日本列島はきびしい不況の中、「この先どうなることか」と不安を覚える人が多いでしょう。ここ1〜2年で景気は回復すると堺屋長官はいっていますので、しばらく我慢するしかありません。

 ただしこの不況は「冬きたりなば春遠からじ」という景気循環による不況ではなく、日本の社会、経済に明治維新、敗戦と並ぶ大きな転換をせまる構造的な不況といわれます。そのため景気が回復したとしても、今ある企業がみな幸せになれるとはいえないでしょう。このような構造変化によって日本の電子産業、プリント板産業がどうなるかを、今年の経済白書を拾い読みしながら筆者なりに考えてみたいと思います。

 日本の輸出の70%は機械類が占めます。その内訳は電気機器が45%、自動車等29%、産業用機械26%となっていて、これらが日本の競争力の源泉になっています。一方アセアン諸国の輸出は食料品、原燃料、雑貨などが多くて、機械類の輸出は35%程度ですが、おどろくことにその85%までが電気機器の輸出なのです。中国も73%が電気機器です(白書、図1-8-7)。これら諸国がもっとも力を入れているのが電気機器なのです。例年開かれるJPCAの国際シンポジウムでもこれら諸国の強気の発言に参加者は一様に圧倒される思いをしています。

 一方日本の製造業の海外生産は年々増えていますが、中でも、電気機械と輸送機械(自動車)の海外生産比率が突出して20−25%の高い数字となっています(同、図2-1-7)。それ以外の一般機械、精密機械は海外生産が10%前後にとどまっていますが、これらの分野では国内生産の優位性がなお保たれているということでしょう。電子機器メーカーの海外生産品目もアセアンや中国が主力とするパソコンその他の民生機器が主体で、産業用電子機器は今も国内生産が中心になっていると思います。この傾向が進むと、プリント板メーカーにとってこれまで飯の種であった汎用グレードの量産品の受注が今後はあまり期待できないといくことです。国内には海外メーカーがまだ作れない(しかしいずれ作れる)ビルドアップや高多層・高密度のプリント板や、高い信頼性は要求されるが多品種少量の産業用電子機器向けプリント板の比率が高まるでしょう。これはすでにいわれていることですが、白書の数字からもそれを読みとることができます。

 最近、ベンチャー起業、新規開業企業が、日本経済再生の原動力になると期待されています。白書では「既存企業内における事業の創造・育成という従来型のシステムが今後も有効に機能しつづけるとすることは必ずしも適当ではない。主として大企業が内部でリスクを背負って新規事業を開拓する従来のシステムが成り立ち、人材・資産ともに拡大路線をとってこられたのは、企業の予想経済成長率が高かったことや、資産価格の上昇があったからであるとみられる。こうした前提条件が崩れた今、新規事業を生み出す人材やリスクマネーを主として大企業の内部に求めることは有効でない。」と新規開業への期待を強調しています。実状はどうでしょうか。

開業、廃業率の推移をみますと、日本の開業率は年々低下し96年には4%程度(廃業率とほぼ同率)となりました。これでは企業の数は増えません。一方アメリカでは開業率14%、廃業率12%で推移していて、企業の数が年率2%も増えているのです(同、付図2-4-4)。新規開業によってどの分野の雇用が伸びているかをみますと、日米ともにサービス業、小売業、飲食店の割合が大きく、製造業の新規開業による雇用創出は相対的に小さいようです(同、付図2-4-3)。若者が新規開業を思い立つとき、何かユニークな「ものを作る」ことを考えるより、まず「お店」を持とうということになるのでしょう。

 雇用を生み出している職種の大きなところを挙げますと、日本では、小売業、飲食店、専門サービス(法務・財務・会計・税務、土木建築サービス、デザイン等)、他事業サービス(各種検査、ビルメンテナンス、職業紹介、警備、労働者派遣)、医療、娯楽、情報サービス、洗濯・理容、旅館、社会保険・福祉など。アメリカでは、人材派遣サービス、飲食店、百貨店、映画製作関連、建設関連(配管・空調、石工事・左官)、託児サービスなどとなっています。堅いものづくりに関わってきた筆者は、このような職種が上位に顔を出すのがおもしろいと思うのです。今後ますますこのような職種に人が集まり、人の集まるところにビジネスチャンスも生まれでしょう。プリント板もこのような用途向けが今後増えると考えます。

 寄らば大樹の陰といわれ、大きい企業、古い企業の方が安全とされてきました。たしかに日本では開業5年で37%、15年で41%の企業が廃業しており、アメリカではさらにはげしく、開業4年で53%、10年で79%が廃業になっています(同、付図2-4-4、付図2-4-5)。ただし最近の日本は状況が変わりつつあります。日本の開業5年未満での倒産は81年の37%から97年には11%に減少し、反対に20年以上の企業の倒産が11%から45%に増えました(同、付図2-4-4、付図2-4-5)。長引く景気低迷が古い業歴の企業により大きく影響を及ぼしているのです。

 アメリカで倒産のリスクが大きいにも関わらず新規開業が多いのには、倒産してもまた次の仕事が見つけられるという社会の弾力性がプラスしているのでしょう。下表をみると、アメリカでは失業しても半年未満で80%の人が次の職についています(同、表2-6-34)。「失敗しても何とかなる」と腹をくくって夢の実現に賭ける元気が感じられます。華僑は故国を離れて世界中で活躍していますが、その経営スタイルは、(1) 先手必勝、(2) 人(人材かコネか?)、(3) 規模を大きくしない、ということだそうです(8/26 NHKインタビュー)。ここで規模を大きくしないのも、失敗したときに転進がしやすいように、ということです。ドイツなどヨーロッパ諸国では長期失業が日本に比べてもずっと多いですが、それを可能にする社会基盤があり、それに耐える生活スタイルが定着しているからでしょう。




 なお、アメリカでは元気な起業家を支援する上でエンジェルが果たす役割が大きいといわれます。エンジェルはベンチャーに金を出すだけでなく経営に関するアドバイスも行う個人投資家です。エンジェルの中心は50歳前後でリタイヤした起業家としての成功者が多く、エンジェルは通常、株を5年ほど保有して、4〜5倍になることを期待しているといわれます(白書。実際の株保有は10年程度になるという)。ハイリスクを承知でハイリターンに賭ける、その資金の余裕と気持ちの余裕には感心させられます。公的資金で手堅くベンチャーを育成するというのは難しいことかもしれません。

 今年の白書はこのような転換の方向を中心に論じ、そのサブタイトルを「創造的発展への基礎固め」としています。

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