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「ブランド」

 表1は「日経エレクトロニクス」が毎年調査している電子機器ヒット商品の年ごとの推移を示したものです[1]。ヒット商品は毎年くるくる入れ替わっていて、そこから長期的なトレンドはなかなか読みとれません。新しい製品の寿命が長いかどうかは、一時的なブームが落ち着いて社会に根付いていくか、いいかえると社会や個人の生活がそれによって変化するかどうかにかかっているでしょう。液晶ビデオカメラやPHS電話機がブームだったのはずいぶん前のことと思えますが、ほんの3年、5年前なのです。こんなに製品寿命が短くては、商品企画・開発部門も、生産・販売部門も対応していくのが大変です。一方ユーザーも各社から次々に出てくる新製品の、何が特長で、他社製品とどこが違うのかを見極めて買うのはほとんど不可能なことです。

 この記事で、1998年のヒット商品は「技術的に優れているというより、商品企画やデザインでヒットした」、また「米アップル社やソニーのもっているブランド・イメージをフルに活用したからこそヒットしたので、他社がデザインだけまねても成功は難しい」などという関係者のコメントを紹介しています。

「差が見えにくい」、「自分の目で選ぶことができない」からこそブランドに頼ることになるのです。

表1 電子機器(民生/個人用)のヒット商品の年別推移

 1位2位3位

 1994年液晶ビデオカメラカーナビ横長テレビ
 1995年カーナビCD-ROMゲーム機ペンティアム・パソコン
 1996年PHS電話機インターネットブラウザペンティアム・パソコン
 1997年携帯ゲーム機低価格インクジェットプリンタディジタル携帯電話機
 1998年アップル「iMacパソコン」ミニディスクソニー「VAIOパソコン」
 1999年(予)録画DVD電子マネー家庭用ゲーム機


 金融ビッグバン時代の金融商品についても同じことがいえます。銀行、生命保険でも株式売買ができるようになり、都市銀行も個人取引を重視していくといわれます。たくさんの金融商品が開発されているようですが、どれもが従来の銀行、郵便局の定期預金より予想利回りが高い(ハイリターン)反面、元も子も失う危険も大きい(ハイリスク)商品です。セールスマンの話からどの商品にはどの程度の危険があるかを理解することは素人にはまず不可能でしょう。各社パソコンの性能の違いが分からないのとは比較にならないくらい難しいことだと思います。家庭でも株の売買ができるという装置ができそうですが、実際に普通の家庭で先物取引を始められたら「キッチン・ドリンカー」以上にこわい話でしょう。

 ビッグバン時代の金融商品の利用者のリスクを減らすため、情報開示や商品の格付け、販売ルールの確立が必要だという議論が盛んです。しかし、ハイリターンにハイリスクはつきもので、すべては自己責任とクールに言い切る人がいます。非常に明快で説得力がありますので少し引用します[2]。
「格付け機関が正しいという保証はどこにもない。実態を知っているかどうかもきわめて疑問です。ディスクロージャ(情報開示)の徹底といわれるが、どれだけ情報を開示しても、それを受け取る側が理解能力を欠いていたら意味がない。今でも一般の人は開示情報を知ろうともしない。ほとんど不勉強だと思う。結局、消費者が金融機関を選別するには「立派だ」といわれるところを信用する以外にないでしょう。"問:どうやって立派だと見抜くのですか"。人のうわさでしょうね。残念ながらそれしかない。自分だけが確実にわかるような「情報」はあまりない。"問:徹底した情報開示はできないということですか"。できないと思います。現在どうかということより将来がどうかを誰もが知りたい。しかし、そうなると将来どんな社会になるかという見通しを持たなければならない。…結果についてはすべて自己責任です。」

 ここに出てくる「立派だ」ということ、「立派という、人のうわさ」がブランドです。プロでない個人がブランド品を買うのは、間違いのない製品を買うことにより安全、安心を手に入れようとしているのです。プロはコスト・パフォーマンスの最高を求め、「ホワイト・ボックス・パソコン」(ノー・ブランドのパソコン)を選ぶ力と度胸があります。そして昔からアメリカ人は日本人より、車にしろ電子機器にしろ、自分がいいと思ったら名前が売れていなくても使ってみるという勇気があるように思います。それがベンチャーを育て日本製品のアメリカ進出を助けた面が大きいと思います。日本でも、これから独自の技術、製品を創り出し、ベンチャーを育てるためには、各企業、個人ともブランドがついていなくても内容を評価できる目利きの力と、いいと思えば採用してみる勇気をもっと高めていく必要があるでしょう。

 ビッグバンに関する上記インタビューでは「現在どうか」より「将来どんな社会になるかという見通し」が重要とされていますが、日本の大手電子機器メーカー12社の研究開発トップへのインタビューでもこれと同じことが強調されています[3]。また「技術」よりも「社会やニーズ」の動向に力点がおかれています。以下その一部を紹介します。
 「5年後,10年後にユーザの環境がどう変わるのか,そのなかでわれわれはどういったものを提供できるのか,次に来る大きな波は何かを常に意識しながら研究を進める必要がある。」
 「目指すのは,セキュリティやサービス品質の保証を実現して,ネットワーク上で安心して情報の取り引きができるようにすることだ。単に「速く,安く」では済まない。情報通信産業は成熟しつつあり,新しい競争に入りつつある。今後どんな新しいビジネスが立ち上がるのか考えることが,これからの研究開発部門が一番の使命。サービスが「いつくらい」に必要で、「どれだけ広く」使われるかが問われる時代だ。技術者には,その「目利き」がますます重要になってきた。」
「ディジタル・ネットワーク,環境共生,健康・医療・ 福祉を3本柱としている。21世紀に向けては"環境との共生"を探っていかなければならない。」
 「マルチメディアやアメニティ,エンタテインメントなどの分野と考えているが、それとともに,これらを支えるエネルギや環境関連(省エネルギ,クリーン・エネルギ、環境)の技術開発は必須である。」

 一方、これからの技術開発にはスピードが要求されるため、その手段としてほとんどの企業が他社との提携(アライアンス)を積極的にすすめたいとしています。企業間の合従連衡がこれから大きくすすむでしょう。アライアンスに関する2,3の発言を紹介します。
「ソフトウエアやネットワーク分野はスピードが速い。自社ですべてをやるというスタイルでは,特定分野を専門にやっているところにスピードで勝てない。アライアンスは非常に有効と考え、規模の効果と技術補完をねらう。」
 「他社と提携を組んだほうが事業化が早く,マーケットも広がるというのであれば,提携を探る。このとき,自社のもつ技術が弱ければ他社と提携できない。強い部分をもってこそ,他社の強い部分と組める。」
 「提携は自然な選択肢だ。理屈だけで済めばいいが,実際の利用環境でもまれてきたものの方が,仕上がりがいい。いまは,基幹技術に強いところと組まざるを得ない。魅力ある技術をもっていれば,提携相手にもメリットを見せやすい。技術者には、世界一になれる要素を磨けといっている。」

[1]「読者が選ぶ1998年版ヒット商品」(日経エレクトロニクス99/1/25)
[2]「ビッグバン時代の自己責任」水谷研治(日経99/2/7)
[3]「研究開発トップに聞く」(日経エレクトロニクス1999/1/4)

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