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「中国」

 今、中国に対する関心が高まっています。日本企業は規制緩和と経済のグローバル化で否応なしにアジア諸国、中国と競争しなければならなくなりました。プリント板の関係では台湾や中国で巨大工場の建設が相次ぎ、またこれら企業のトップの「向かうところのない元気」に日本企業はあてられっぱなしのように思われます。先頃のJPCA訪中団も訪れたコンペック社から建屋面積21万米、従業員6100人(カレッジ卒以上720人)で、生産量は6,8層主体に20万平米/月[2]、との説明におどろかされたことでしょう。日本全体の多層板生産は53万平米/月[3]ですから、1社で日本全体の実に40%近くに相当するのです。

 来日する中国人研究者が大変優秀だと聞きますが、一方派手な犯罪事件や不法入国のニュースにも中国人がたびたび登場します。中国に進出した企業の多くが中国でのビジネスの難しさをいいます。中国に対する感情にアンビバレンス(愛憎、好き嫌いの両面性)を覚える人も少なくないでしょう。

 演出家の浅利慶太氏が次のように書いています[1]。「北京から東京に向かう機中である。...機は黄海上空に出た。眼下は、いわゆる「一衣帯水」の海。ところが私はこの言葉を聞くといつもちょっと不安を感じる。「同文同種」についても同じである。「我々は一衣帯水の間であり、同文同種である。我々には共通項がある。だから理解し合える」。日本にも中国にもそう言う人は多い。しかし本当にそうだろうか。日本人と中国人はかなり違う。数十年日中にかかわる仕事をしてきた実感である。...歴史も文化も家族感も、もしかすると価値観も日中は違う。日本では死者となれば怨敵も仏となるが、中国では墓を暴いてむち打つことすらある。中国人と今後も平和に暮らしてゆくには、隣家にもうひとつ気の合わない人が住んでいる、と思った方がいいかもしれない。...「日中友好」。それはそんなに簡単にできることではない。時に辛く、時に耐えねばならぬことの積み重ねだと思っている。」

 また、ハーバード大学戦略研究所所長ハンチントン氏は、世界を中華、ヒンズー、イスラム、西欧、ロシア正教会、ラテンアメリカ、アフリカの8つの文明に分類した上で、世界の安定を脅かす危険は文明を異にする国家や集団間の衝突である、といっています。インタビューで「日本文明はもともと中国文明の一部だったが、580年頃から異なる道を歩んだ。長い間孤立しており、かつどこにも広がっていない。...アメリカは今後弱くなるだろうし、中国はアジア地域で強大化していくだろう。そのとき、日本は反中国グループにつくだろうか。わたしはそうは思わない。...文明の違いは実際に存在している。「地球市民」とか「一つの文化」などという人がいるが、私はあり得ないと思っている。現実を直視することによってのみ、暴力的な事態を防ぐことができる」

 二人の言っていることは似ています。これからの時代、中国とは仲良くつきあっていかなければなりませんが、それは簡単なことではないのだと自覚してかからなければならないということです。日本人は今、景気の低迷から何もかもに悲観的なムードにっています。日本の政治家や企業トップも今ひとつ自信がなく、中国の口達者でパフォーマンスの上手な江択民主席や朱鎔基首相に押されているように見えます。しかし中国の置かれた状況は日本に比べはるかにきびしいのです。逆に日本の実力は今も世界でトップレベルにあり、日本に来る外国人からは欧米に比べても住み心地の良い国とされているのです。ある中国人のいわく「問題は、日本人がその事実を認めようとしないということです[4]。」中国政府の政策の頻繁なアクセル、ブレーキや法律の変更は、あまりにも大きな国と大きな課題、あちら立てればこちらが立たないジレンマからくるやむを得ない措置かとも思うのです。1990年「ケ小平」はシュミット西独首相との会談で「中国が乱れると、人口流出が大問題になり、誰も止められない。タイに1,000万人、インドネシアに1億人、香港に50万人流出したらどうするのか」と言ったそうです[5]。

 表は各国のGDP(国内総生産)と自国の将来に対する意識調査の結果です。日本のGDPはアメリカの半分以上あり、ドイツ、フランス、イギリスを合わせたより大きいのです。1人あたりGDPは世界一です。一方中国はまだGDPで日本の11%、一人あたりでは1.1%にとどまっています。しかし国の将来に対する意識で中国人はなんと明るく、それに比べて日本人は暗いのでしょうか。

表 各国のGDPと自国の将来に対する意識[6]
 GDP
(百億ドル)
人口
(百万人)
1人あたり
GDP(ドル)
10年後今より良くなる国際社会のリーダーになれる
 日本45912536,70029%8%
 中国511,21142091%22%
 アメリカ72526327,600  
 ドイツ(旧西独)1838222,300--  
 フランス1545826,600--
 イギリス1105819,000--

 堂々たる権威的な秩序がある一方で、その外側に無秩序ともみえる混沌がある、経済的苦境にありながらある種の幸福感が横溢している、このような中国に、訪れる外国人がおどろき、かつ、とまどう様子を何人も書いています。混乱と拝金主義といわれる中国にこんなエピソードが紹介されています[5]。

 「北京の勤め先に、若い女性の声で電話がかかってきた。「手帳を落としませんでしたか」「なくして困っていたところです。どこにありましたか」「魏公村です」。北京北西の薄暗い場末の通りで、新彊ウィグル自治区から出稼ぎた人たちが住みついている。麻薬、銃が密売されているといわれる。...食堂を訪ねると、ほつれ髪にスカーフを巻いた、ほっぺたの真っ赤な十代半ばの少女がいた。...彼女は私を見ると、すぐに店の中に駆け込み、背を伸ばして食器棚の上の青い手帳を取り出してくれた。「手帳の中に名刺が入っていたので、電話してみたのです。うまくつながらなくて、3回かけたんです。だから、連絡が遅くなりました」。「ありがとう」と言った瞬間、手土産すら持ってこなかったことに気づいた。失礼とは思いながら、少しばかりの現金を包んだ。しかし、彼女は「困ります」といって受け取ってくれない。仕方がないので、パンを一つ包んでもらい、百元札を出した。中国人にとっては大きな金だが、私にとっては、それでも不十分なほど大切な手帳であった。しかし、彼女は「お釣りを出しますから」といって聞かない。店主の親父さんも「釣りを出さないとだめだ」という。私はとっさに、その百元札をテーブルに放り投げて逃げた。...すぐに嫌悪感におそわれた。「中国人の拝金主義を批判しながら、自分も人の親切に金で応えようとしている」この話を知人にしたら、みんな口をそろえて「奇跡だ。信じられない」といった。「あの町で、財布をとられたという話なら、しょっちゅう聞くけれど」」。

 このような風景は以前この欄で紹介した幕末、明治時代に来日した西洋人が見た日本人の貧しさの中の明るさや親切ではなかったでしょうか。敗戦直後の何もない日本にも不思議な明るさがありました。今や世界第二の経済大国になった日本。それは奇跡といわれます。日本人の努力もあるでしょうが、幸運も大きかったと思います。表にあるようなポジションを今後も保ち続けるのは難しいと考える方が自然でしょう。日本人はそれを感じ取るから、いま手中にしているものを失う心配から不安になるのでしょう。中国は伸び、日本もそれなりに姿を変え、それなりの新しい安定に向かうと信じています。それを日本の没落と考える必要はないでしょう。ハンチントンはアメリカも弱くなると言っているのです。

 経済審議会が10カ年計画の課題の一つに移民労働者の受け入れを挙げました。これから外国人労働者の数はますます増えてくるでしょう。外資の導入や外国人社長も増えるといわれます。「以心伝心」とか「話せばわかる」とはいかない隣人と上手に暮らしていくための努力と工夫がこれから重要になってくるでしょう。

[1]「三ツ葉と香菜」浅利慶太(日経99/3/2)
[2]「1999年COMPEC社資料」台湾、中国、米国の4工場の計
[3]「プリント配線板生産動向」(通産機械統計1998)
[4]「中国路地裏物語」上村幸治(岩波新書1999)
[5]「アジアの知識人は日本をどう見る」デイビッド・ウー他(中央公論98/5)
[6]GDP(1995)は総務庁統計局、人口はマイクロソフト・エンカルタ、将来見通しは電通総研調査(1997)
[7]「移民受け入れ労働力補強」(日経99/4/14)

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