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「日本のサバイバル、企業のサバイバル」

 第一勧銀、富士銀行、興銀の3行が業務統合、世界最大の銀行(メガバンク)が誕生するというニュースが大きな話題になっています。発表当初はグローバル化のすすむ世界経済の中で日本の銀行が生き残るための思い切った決断とはやす、バラ色の明るいムードがいっぱいでした。しかし、6000人(一説には2万人)もの人員の削減や重複する支店の集約、事業の統合を具体的にどうやって実行するのかと課題の大きさも報じられ、多くの人がこの統合のゆくえ、成功、不成功を息を詰めて見守る空気になっています。自動車、化学などの分野でも世界的なM&Aが急速にすすんでいる中、名の通った歴史のある日本の大企業もM&Aとは無縁に孤高をたもち、今の業務範囲と態勢で今まで通りの実績と名声を維持していけるとはどの業種の経営者も思ってはいません。過去最大の合併劇の行方に人ごとではない関心が集まるのは当然といえます。選択と集中、そして規模の拡大は企業のサバイバルのキーワードとなっています。

 一方で、日本の再生はベンチャーの創業、育成、活躍にかかっていると官民あげて叫ばれています。アメリカでは高い開業率、ベンチャーの創業が新しい産業を次々に作り出し、経済の隆盛を支えているのに比べて日本では、開業率が低いことが心配されています。ベンチャーに挑戦しようという意欲ある若者が少ないと嘆き、「いでよ挑戦する人材」[1]、「いでよ日本のビルゲイツ」[4]と官民挙げて若者の奮起を期待する声が高まっています。確かに次のようなグラフや数字から見ると日本の若者の安定志向は世界的に見て際だって強いといえます。



 日本 アメリカ ヨーロッパ

工学部学生の就職先[1]     
 230人未満11% 32%  
 3,000人以上75% 47%  

工学部学生の望んでいる進路[2]     
 自分の会社を設立・発展11% 27%  
 既存企業や組織で出世41% 22%  

開業率[2]4% 11% 6〜13%(平均10%)


 しかしながら日本の開業率の低さを近頃の若者の気質、無気力のせいにするのは、いつの時代にもある年寄りの思いこみです。低開業率の一番大きな理由は「失敗時の生活へのリスクが大きい」ことなのです[3]。開業率だけでなく今の不況の最大の原因は、家計の不安、失業の不安、老後の不安だといわれます[2]。実際、老後の生活が非常に心配であるとする人が20代、30代、40代ともに35%以上も占めています[2]。筆者の20代には老後の不安など考えもしませんでした。結婚しても転勤、社宅住まいが当たり前、若いうちに家を建てるなどはカッコ悪いことと生意気にも思っていました(間違いであったと後で気づかされるのですが)。

 今年の経済白書[2]はこの閉塞状態をうち破るべく堺屋調「リスクをとれ」と叱咤激励しています。「経済の国際化が進展した中でリスクは大きくなって いる。日本ではこのリスクを今まで金融機関がとっていた。そして破綻。そこで国や公的金融がかなりのリスクを肩代わりしている状況にある。しかしこれをいつまでも続けられない。これからは家計もリスクの負担が必要だ」というのです。この白書に対して「家計も市場原理を、と説くのは安易だ。ローリスクで普通の生活を求める国民も少なくない」という批判も出ています[6]。しかし日本が全体的にリスクに弱い生活スタイル、社会風土になっていることは確かでしょう。この25年間に消費者物価は2.8倍になったのに対し、家庭の教育費は8.6倍にもなっているそうです「6」。大学の学費は日本では80%は親が負担しているのに対し、米国では30%程度、全く負担しない親が40%もあります。住宅負担も大きな割合を占め、リストラで失業するとたちまち支払いがいきづまり家計が成り立たなくなる危険があります。「子供には人並みのことをしてやりたい、苦労はさせたくない」が親の生活の弾力性を小さくし、子供の自立を遅らせているといえるでしょう。またそれを可能にしてきたのが30年近くつづいた高成長と年功序列賃金の定着です。それが不可能となったこれからは、不幸にしてリストラされても、ベンチャーに失敗しても最低の生活は成り立っていく社会環境と生活意識・スタイルを作っていくことが先だと思います。そうなってこそ日本に再び創業の活気が戻ってくるでしょう。若者の覇気のなさ、学力の低下を憂える声が多い中、次のような数字があります。転職希望率はこの25年で20才前後では約3倍(50才でも約2倍)に増加し、失業は「人生のやり直すきっかけになる」とする人が20代で65%、30代でも40%もあります。若者の方が時代を先取りしているといえるのではないでしょうか。

 かねてから疑問に思うことがあります。まずおどろくのは急成長する外国企業が鮮やかに事業内容を変えていくスピードです。世界最大の電機メーカーであったGEも重電第2のウェスティングハウス(WH)も重電事業からほとんど撤退し、今や保険やマスコミの会社になってしまいました。携帯電話で急成長するフィンランドのノキア社は90年まで重電、タイヤ、工作機械、テレビを手がけるコングロマリットで、通信事業は全体の25%でした。それがこの10年足らずで重電などの事業をつぎつぎに売却し、今や通信部門が全体売り上げの93%を占め、売上高は7倍にも成長しました[5]。

 日本の原子力発電所のすべてはGE、WHの2社と技術提携して作られたものです。2社は銅張積層板も作っていました。重電(この言葉も死語に近いか)は電力供給を支える重要な産業です。急成長は期待できない部門かもしれませんが、決して過去の産業ではありません。GE、WHのこれら部門の工場はどうなったか、その工場に勤める従業員はどこへ行ったか。技術はどこに受け継がれていったのかなどが気になります。欧米に銅張積層板の工場は数十社もありますが離合集散がはげしく、どの会社がどこに行ったのかほとんどわからなくなりました。今も再編が進んでいると聞いています。ここでもその製造設備は、人は、技術はどうなっていくのでしょうか。

 日本では今まで重電も銅張積層板も老舗企業がそれぞれの「のれん」を守ってきましたが、日本も重電メーカーでは系列を越えた事業統合、集約が進みつつあるようです。筆者は銅張積層板やプリント配線板についてもいずれ系列、生い立ちを越えた統合集約が進むのではないかと推測します。

 ここで私たちが分けて考えなければならないのは、企業の再編やM&Aと、廃業、事業所閉鎖は別だということです。経営者にとって企業の成長は使命であり、株主に対する責任でしょうが、直接事業に携わる製造、技術の人たちにとってはその仕事が天職となっている場合が多いでしょう。所属チームが転々としても野球やサッカーを愛し、プレーを続けるプロの選手のように。

[1]「いでよ挑戦する人材」(99/8/18朝日社説)。調査対象は東大、東工大、MITの卒業生(1993科学技術庁調査)。
[2]経済白書(平成11年版)。
[3]「中小企業創造的活動実態調査(中小企業)」[1]
[4]「いでよ日本のビルゲイツ」(朝日99/8/31)
[5]「ノキア、専業に転身、世界の頂点に」(日経99/8/23)

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