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「ICの価格、プリント板の価格」

 たまごは物価の優等生といわれます。この40年ほどの間に、そば、うどんの値段や初任給は20倍以上に高くなりましたがたまごの値段はほとんど変わっていません。40年前1個10円しましたが今でも特売日には10円を切ることも。

 一方、かつて1インチ1万円といわれたカラーテレビの値段が10分の1近くまで下がっても、100万円したパソコンが10万円を切っても優等生とはいわれません。みんなそれが当たり前と思っているからです。しかしパソコンの箱を開けてみるとその複雑さと精密さにおどろきます。そのパソコンがこれほど安く作れるというのは考えてみれば不思議なことです。コストを構成するIC、プリント板などの部品や材料、労務費、設備費、経費をすべて10分の1にしなければならないのです。このようなけた違いのセットコストの引き下げを可能にしたのは第一に半導体(IC)の急速な集積度・性能の向上であり、それにリードされて進められた実装の小型、高密度化とコストダウンです。しかしその過程ではプリントや実装に実力以上のきびしい値下げが強いられてきました。業界は「高密度化、高性能化にともなうコストアップは価格に反映を」とセットメーカーに永年訴えてきましたがほとんど受け入れられることなく、セットメーカーの要求ときびしい競争の中で製品価格は下がりつづけました。しかし業界は結果的にはこの試練を乗り越えてきました。以下、ICとプリント板の価格・性能の推移を比較し、それをもとにプリント板価格の今後についても予測してみたいと思います。


 図1[1]と図2[1]はLSI(DRAMとMPU)の集積度と価格性能比の推移を示すものです[1]。LSIの集積度は年率38〜39%(5年で5倍)で上昇し、性能あたりの価格は年率35〜37%(5年で10分の1)で下がりつづけています。ちょっとみるとLSIの価格がおどろくべき速さで下がっているようにみえます。しかし一方で性能が急上昇しているためLSI1個あたりの価格でみるとこれほど急激に下がっているわけではありません。LSIの性能はその集積度に比例すると仮定しますと図1と図2の数字を掛け合わせた数字はLSI単価の一つの指標になります。2つの図を比較しますと、集積度の向上はDRAM、MPUでほぼ同じ率(39%/Yと38%/Y)ながら価格性能比の向上はDRAMではMPUに比べ若干低くなっています(35%/Yと37%/Y)。とくに90年代に入ってから数年間DRAMの価格性能比の向上(単価ダウン)が停滞しました。そのおかげでこの期間DRAMメーカーは経営的に「わが世の春」を謳歌しました。しかしこの時期が終わるとDRAM価格が一気に暴落し半導体メーカーの経営は大きくゆさぶられました(注)。松田氏は90年代前半のDRAM価格の高値安定は日米半導体協定に守られて価格性能比の向上が遅れた(図2)ことによるもので、結局ここ2年ほどでそのツケを返し本来の姿に戻ったのだとしています。DRAMについて技術革新がなかったというのではなくそのスピードがそれまでの半分程度に落ちたからだというのです。半導体は全速で走り続けていないと倒れるというきびしい業界なのです。

 プリント配線板についてはどうでしょうか。図3[2]はここ15年のプリント板単価の推移を示したものです。図の単価は通産統計[2]のプリント板生産金額を生産量(m2)で割って求めたものです。また表1[2]には生産量と単価の数字を示しました(1985年基準。元データは同じ通産統計)。



 1990年までは片面、両面、多層板ともに単価は一様に下落していきましたが、それ以降は片面、両面板ではひきつづき単価下落がつづいているのに多層板では逆に単価が上昇に転じています。その理由は多層板の内容が高多層化、高密度化により大きく変わったことによると推定されます。ここ数年はビルドアップ多層板の生産増加も寄与しているでしょう。もしこのような内容の変化がなかったら多層板の単価は片面板、両面板と同程度の値下がりになっていたと思われます(図3の細い点線)。表2からこの15年間に片面板は約7割(年率2%)に、両面板は約半分(年率4%)に単価が下落したことがみられ、多層板も1985〜1990の5年間では年率9%のかなり高い率で価格が下がっています。一方生産量(m2)でみますと片面板は横ばい、両面板は3倍弱の伸び に対し、多層板は6倍の伸びになって、プリント板の主力が多層板に移行したことが分かります。

 一つの疑問があります。プリント板は年々単価が引き下げられましたがそれでもこの15年で半分程度です。セットの価格はどうして5分の1、10分の1にまで下げられるのか。その理由はセットあたりのプリント板使用枚数の減少とプリント板の小型化です。現在プリント板の生産量はm2単位で集計されていますが半導体はサイズによらず個数で集計されます。プリント板でもモジュール基板は個数で集計した方が実際的でしょう。通常のプリント板も小型化が進むと1個いくらで取り引きされるようになるかもしれません。

 さてこの先プリント板の単価はどうなっていくでしょうか。半導体の高集積化、高性能化(高速化)が一層進むことは確実であり、それに対応してプリント板の高密度化、高性能化への要求は今後さらに強まるでしょう。その技術開発には多額の費用と人手がかかります。しかしそのコストを製品単価に転嫁することは多分むつかしいと思います。図4の多層板単価の推移にみられるように機能、性能を上げながら価格は現在の水準を維持するのがやっとではないでしょうか。一方従来仕様の多層板の用途も残りますがその単価はこれまでの片面、両面板単価にみられるように今後も下がり続けると覚悟しなければならないでしょう。どちらもきびしい道と思われるでしょうが、今まで達成してきた道でもあります。1985年から15年、プリント板はずいぶん値下がりしましたがこの間に労務費比率(対売上高)は14.2%から13.2%にかえって低下していますし、材料費比率も上がっていないのです[4]。苦労はあるでしょうがこれからもコストダウンは十分実現可能と信じています。

 注.表2は1994年〜1998年の半導体全体の生産量と単価の動きを示したものです[3]。この4年間に生産量は24%増となりましたが単価は16%下落しまし た。

[1]松田俊介「システムLSIの巨大化に、ソフト開発が追い付かない」(99/9/20 日経エレクトロニクス)
[2]通産省生産動態統計
[3]機械統計年報(平成10年版)
[4]「プリント配線板工業の現状(S61版)」及び「電子回路産業の現状(1999版)」


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