JPCA NEWS 2000.10

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号

「プリント板の製造歩留まり」

 かねて頭の片隅にひっかかっていた疑問が、誰かの言葉で「なるほど」と納得させられることがあります。以下は半導体製造歩留まりに関する西澤先生の文章です。西澤先生は独自発想の半導体開発で有名です。面白いと思いますので少し長くなりますが以下に引用します[1]。

 「・・・歩留まり90%、つまり10個つくって1個だけ不合格品というとき、あとでつなぐのはやめて初めから2つ一緒につくればよいだろうと考えた人は、昔からたくさんいた。こういうのを複合部品というが、2つ一緒につくった場合には、どちらかが不合格品であると使えない。複合部品の合格品ができる割合は90%×90%で81%になる。だから集積回路ができはじめたころ、うまくゆかないだろうと考えた人は筆者を含めてそうとういた。最近話題の1ギガビットDRAMなどというのは、50億個ぐらいの回路部品をシリコンの上につくり込んであり、それぞれが90%の歩留まりだと、全体の歩留まりは0.9を50億回掛けた値になり、限りなくゼロに近い値になってしまう。合格品など、できるはずがないということになるのだ。

 ところが、1ギガビットDRAMでも、会社の研究所ではいくらかはちゃんとできており、将来まず間違いなく工業品になるだろうとたいていの人は信じている。なぜかというと、不合格品が出るのは、確率で考える現象ではなく、原因がなければ出てこないということがわかってきたからである。

 つまり、製品をつくる結晶の結晶格子に列になった乱れがあれば、その列に沿って通常、動作が異なる部分がつくられることがわかったため、このような「転位」と呼ばれる結晶格子の乱れをもたないような無転位結晶をつくる努力がなされたのである。日本の貢献も非常に大きかったが、その種の技術の進歩によってメガビット、つまり百万個台の記憶集積回路については全部が合格であるものができるようになり、採算がとれるようになってきたのである。

 これが、半導体集積回路工業が発展することになった最大の要因であり、このような膨大な数の部品の場合でさえ、不合格品の生まれる原因さえ把握されれば、それまで確率現象と考えられていた歩留まりが確率現象ではなくなり、問題を克服することができることを示した、工業史上まさに画期的な進歩となったのである...」

 筆者もかつてLSI開発の動きが出はじめた頃、「LSIは商業的には製造できない」という議論を読んだことがあります。トランジスタ1万個のMSI(中規模集積回路)を95%の歩留まりで製造できたとしても、これを100個集積したトランジスタ100万個のLSIを作ろうとすると、歩留まりはほとんどゼロなってしまうというのです。そこでは「数の暴力」という表現が使われていました。それが今ではトランジスタ2000万個、線幅0.18ミクロンのLSIがゲーム機用に量産されてます。なぜこんなものが作れるのか筆者はかねて疑問に思っていました。それが西澤先生によれば、半導体製造での不良発生は確率現象ではなく、はっきりした原因があって起こるものだ。それさえ克服すれば不可能に見えるLSIの製造が可能になるのだというのです。

 しかし確率論のテキストでは、製品Aが歩留まり90%、製品Bが歩留まり80%でそれぞれ製造できるとき、A、Bを一体化した製品Cの予想歩留まりは0.9×0.8=0.72、つまり72%になると書いてあります。テキストが間違っているのでしょか。そうではありません。よく読むと、製品Aと製品Bの不良が別々の原因によって生ずるという前提のあることが分かります。不良の原因が共通していて、製品Aが不良になるとき製品Bも同時に不良になるのであれば、2つを一体化した製品Cの歩留まりは90%のままです。共通原因を探し当て、対策をとれば95%、98%と歩留まりを向上させることも可能になります。半導体工業のすごいのはこの理屈ではなく、不良の共通原因を徹底的に追及することにより1000万個、1億個という「数の暴力」を克服した実績です。ただし半導体もこの原理によって簡単に歩留まりを上げることができるわけではなく、0.25〜0.18μmプロセスでは歩留まりが上がらず納期遅れが多発したといわれます。原因は新材料や新プロセスの導入が相次ぎ、歩留まり低下要因が増えたからだとされます[2]。

 さて、プリント板の製造歩留まりについてはどうでしょうか。図はここ15年間の多層板製造歩留まりの推移を示したものです[3]。グラフ中、下側に並 ぶ点は製造工程上がりの歩留まりであり、上側の点は最終検査で見つかった不良品を手直ししたもの(修正品)も良品に含めた歩留まりです。グラフから、製造上がりの歩留まりはこの15年ほとんど変わっていないこと(いくらか低下の傾向)、修正品を含めた歩留まりは1%以上も低下していることがみられます。ただしこの期間に生産品種の構成は大きく変わっています(表1)。全体の生産額は3.4倍に増えましたが4層板の伸びは小さく、6−8層、10層以上に大きくシフトしています。同時にこの間にパターンのファイン化が急速に進んでいますから配線密度(プリント板面積あたり配線長)でみると4倍以上になったのではないでしょうか。手直しによる歩留まりアップは以前の4%から最近は3%程度に下がっています。多層化で簡単に修理できない不良が増えているのでしょう。

 表2は不良発生の多い4工程の重要度合いを示しています。歩留まりへの影響度合い(評点)はこの4工程で全体の三分の二を占め、4工程の順位も15年間ほとんど変化していません。プリント板の製造では昔も今も導体パターンの形成(パターン形成〜エッチング)が一番の問題工程になっています。

 それにしてもプリント板製造における歩留まりが永年92〜93%と低位に安定している(?)のが意外でもあり物足りなく思います。この15年に技術も設備も大きく進歩したはずなのに。配線密度が4倍程度には上がっていると思われますので予想歩留まりを確率で計算すると 93%×93%×93%×93%=75% となります。配線密度が上がった割には歩留まり低下が小さく、92〜93%にとどまっているのは相当の改善努力の結果だ、といえるのかもしれません。

 しかし予想されている半導体の高密度化に合わせるためには、プリント板にも一段の配線密度アップ、ファイン化が必要です。それに対応していくためにはプリント板についても、不良品の発生をランダムに起こる確率現象とあきらめず、LSIの歩留まり改善で追求されたような根本原因を把握して解決をはかるという、従来以上に基礎的なアプローチが必要になるのではないかと筆者は考えます。

[1][技術大国の落とし穴」西沢潤一(Voice 2000/5)
[2]「歩留まりアップをもっと速く」(日経マイクロデバイスhttp://ne.nikkeibp.co.jp/NMD/2000/1001)
[3]「電子回路産業の現状」(日本プリント回路工業会)
 1996年以前は「プリント配線基板製造業実態調査報告書」(通産省)


JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号


社団法人日本プリント回路工業会
Japan Printed Circuit Association