水族館に行きますと、さまざまな形の色とりどりの魚が泳ぎ回っていて見飽きません。それぞれが1つの「種」であり、その子ども孫も同じ形で生まれてくるのです。生物の種は百数十万種に達するといわれます。なぜこんなに種類が多いのか、種の分化に必然的な理由があるのか。種間の競争、自然淘汰の圧力がはたらく中でどうして種の数は減らないのか、と不思議に思います。多分、どの種も生きていけるニッチは狭く、自分たちの生きるニッチにいっぱいに適応することによってかろうじて生き延びてきたのでしょう。
これに比べると人間社会や文化の多様性は大きいといっても生物の種に比べるとけた違いに単純といえるでしょう。日本はアメリカ、中国やインドに比べるとずっと多様性の少ない社会でしたが、これからは否応なしに多様性が増していかざるを得ません。
さらに単純なのは技術の世界です。半導体はライン/スペース2μm程度から0.2μm以下にまで急速にファイン化し、そのおかげで電気製品の高機能化と低価格化が実現できたのですが、シリコンウェハー上に写真法で回路を積み重ねていく製法自体はこの40年間ほとんど変わらず、世界中が同じプロセスを使っています。かつては半導体メーカー自身が独自の装置や技術をつくっていましたが、いまでは少数の装置メーカーや薬品メーカーで装置や技術のほとんどがつくられ、それがどこでも使われる時代になったといわれます。自動車メーカーもモジュール化と標準化を進め、いかに部品の種類を減らすかに精力を傾けています。
プリント配線板はどうでしょうか。プリント配線板は典型的な多種多様の製品です。多種多様だからこそプリント配線板を使うのであって、少品種大量用途ならLSIにしてしまおうというのがセットメーカーの基本的なスタンスです。しかし多様なプリント配線板をつくるプロセスはというと世界中おどろくほど共通していて、現在ではほとんどが「銅張り積層板+サブトラクティブ法(略してサブトラ法)」になっています。銅箔をエッチングして導体パターンをつくり、これを重ねて一括積層するというのがサブトラ法の標準的な製法です。昭和40年代前半(1965〜1970)、多層板製造がはじまった頃には百花繚乱、さまざまなアイディア、製法が提案されました。実用化されたプロセスもあれば、アイディアだけで終わったものもあります。それがこの30年ほどの間に「サブトラ」一色になりました。生まれてきながら育たずに消えていった多くのアイディアや技術はその後どうなったでしょうか。これらはちゃんと生き残っていたのです、「技術の遺伝子」として。生物の遺伝子で実際の活動に使われるのはごくわずかだといわれます。大半の遺伝子は眠ったままで代々受け継がれます。環境が変わり、自分たちが活動できる時期が来るのを待っているのです。これが遺伝子のプールです。「ビルドアップ法」も眠っていた技術のひとつです。アイディアが出たのは30年ほども前になります。当時はアイディアを活かせる技術のレベルが低く、さほど高い配線密度も必要とされなかったためコスト面でサブトラに対抗できず、ビルドアップ法はお蔵入りとなったのでした。
しかし環境が変わってきました。半導体が基本的に同じ製法でデザインルールを2μmから0.2μmまで縮小してきたのに、プリント配線板は従来のサブトラ法では300μmから30μmまで縮小することができませんでした。そこに眠っていたビルドアップ法がSLC法(IBM)として日の目を見ることになりました。ビルドアップ法が100μm未満の多層板製造に有利なことが実証されるや、あっという間に多種多様なビルドアッププロセスが開発され、まず日本で普及が進み、世界的に拡がり始めました。
ところでビルドアップ法とはどういう製法を指すのでしょうか。「プリント回路用語」[1]によりますと、「めっき、ぷりんと
Density Interconnection)と言い換えています。HDIは単に高密度配線という意味であり、内容が漠然としていてこれもあまり適切な用語とは思えません。
上述のようにビルドアップ法を特徴づけるのは要素技術のプラスαです。プラスαの技術には「技術の遺伝子プール」から浮かび上がってくるものと、突然変異により新しく生まれてくるものがあります。前者には「ビルドアップ法」の他、穴埋め法、銀スルーホール、パートリーアディティブ法、ピンスルーホールなどかつての製造技術が何らかの形でいまビルドアップ技術の形成に役立っています。これらは「ビルドアップ法」のアイディア以外すべて日本で生まれ育った技術です。
フォトビア、レーザビアは新しい技術で、これら技術のおかげでビルドアッププロセスが実用化できたといえますが、突然変異とも思われるユニークな国産技術もあります。B2ITはその一つといってよいでしょう。導電ペーストで形成したバンプを、プリプレグを介して銅箔に突き当てるだけで層間接続を行うという発想は飛躍しています。穴明けもめっきも不要で、信頼性は十分高いというのです。ある人にその信頼性について質問したところ「私どもにも理屈は分かりませんが評価すると信頼性は十分高い」とのこと。新技術はこうして生まれ、理屈は後からついてくるのです。最近また面白い報告を読みました[2]。ガラスエポキシの片面板にレーザ穴あけし、穴内を銅めっきで埋め、その上にはんだめっきしてバンプを作ってから、全面に接着剤をコートします。このシートを何枚も重ねて熱プレスで接着するというプロセスです。面白いのは積層プレス時にはんだが溶融したエポキシ接着剤層を押しのけて内層のビアランドと接触し、電気的な層間接続が得られるという点です。この技術も意表をついています。この方法でライン/スペース50μm/50μm が実現でき、その信頼性も十分とされています[2]。その他一括積層による製法がいろいろ報告されています。これら報告を見ると日本のもの作りの現場はまだまだ健在と心強く思いました。
技術は階段状に進歩します。多層板の製法開発は1960年代後半に大きな波がありましたが、20世紀の最後にふたたび製法開発の波がやってきたようです。そして1960年代の波がアメリカ主導であったのに対し今回の波は日本が中心になっています。ビルドアップ法は今後どれが主流になっていくか予想がつきません。しかし多分それぞれの技術がそれぞれのニッチを見いだし生き残っていくものと思います。たとえ表舞台から消えたとしても技術の遺伝子プールに蓄えられ、いつの日か新しい時代の実装技術に役立っていくことでしょう。