JPCA NEWS 2001.8

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「BB比」

 今年、日本の夏は猛暑でしたが、プリント板業界は世界中どこもきびしい冷夏の真っ只中です。日本では稼働率が5割というプリント板関連メーカーが少なくないと聞きます。アメリカ、ヨーロッパでは一時閉鎖、レイオフの風が吹きまくり、中国の某新鋭工場はほとんど稼動していない、などという話も伝わってきます。かつて日本から列をなして詣でたIBMやAT&Tのプリント板工場も永久閉鎖とのこと。

 世界のハイテク産業が一気に不況局面に変わってしまいました。その変化があまりに急なのにおどろかされます。アメリカのIT不況が世界に波及したためといわれますが、世界のハイテク産業が好況を謳歌していた昨年、数ヵ月後にこんなにきびしい不況がくるとはほとんど誰も予想していませんでした。急成長する産業では、ある日突然、急激な調整局面がやってくるというのは避けられないことでしょうか。何十年、何百年の間にプレートに蓄積されたストレスが、あるとき地震となって瞬時に開放されるように。

 プリント板製造は地道なものづくり産業とされています。しかしIT産業の一翼であり、IT産業には実体経済とはかけ離れた「先物買い」あるいは「バブル」の要素があるようです。「通信機器、コンピュータ、半導体、サービスを含めたIT産業が先進国経済に占める割合は、国内総生産(GDP)全体の3.2%に過ぎない。ところが、資本市場での価値創造額(全上場企業の時価総額の増加分)で評価すると、様相は大きく異なる。1990年代の10年間、世界経済は全体で約23兆ドルの価値を生み出したが、そこに占めるIT産業の貢献分は約21%と巨大である。実体経済と資本市場におけるプレゼンスの大きな差は、IT産業の顕著な特徴だ」[1]。

 最近、プリント板関係の人が集まると、たいてい先の見えない景気の話になります。マスコミは、IT産業はただいま大雨、と繰り返すだけで、いつごろ天気が回復するかの予報はほとんど出しません。それでは天気予報のなかった時代と同じで、天を仰いで嘆息するか、天気の回復を氏神様に祈るしかありません。そこで筆者は素人ながらプリント板需要の大胆な予測を試みました。IPCの「BB比」データだけを用いて。

 「BB比」とは受注額/生産額比率(Book-to-Bill Ratio)の略で、IPCは米国プリント板産業のBB比を毎月発表しています[2]。1985年以降のBB比の推移を図1に示しました。BB比は昨年12月から急激に下がりはじめ、受注額が生産額を下回る状態(BB比1.00以下)が7ヶ月間つづいています(4月、5月はBB比0.6台まで落ちたが6月は0.74まで少し回復)。こんな落ち込みははじめてです(図1)。

 BB比は受注額/生産額の比率であり、受注額は何ヶ月か遅れて生産額となります。そこで筆者はその遅れを仮定して、BB比データから受注額を推定し、グラフにしました (図2)。米国では1993年頃から受注が増えはじめ、1999年末まで年平均約7%で伸びています(この期間、日本のプリント回路生産額の平均伸び率も7%[3]。これは偶然の一致?)。7%自体、高い伸び率ですが、2000年に入ると受注はさらに急増し、前年同月比20%以上もの伸びが8ヶ月もつづきます(最高は前年同月比55%)。そして、2000年10月を境に急落に向かいます。なお、世界の半導体出荷額も10月をピークに急減に転じました。図2を眺めると、その形がバブル期の地価の推移にそっくりなことに気づきます。やはり2000年はITのバブルだったのでしょう。

 さてバブルがはじけた後、IT産業はどこへ行くのでしょう。日本経済のバブルがはじけたとき、どの辺まで地価が下がれば経済は落ちつくのかという議論がありました。ある予測では、潜在的な成長率(3%前後)のまま安定的に成長し、バブルが起こらなかったとした場合に期待できる成長ラインまで地価が下がってくれば、再びその成長ラインに沿って成長軌道に戻るだろうと予測していました。現実は、地価はすでにこの成長ラインより下まで下落したのに、日本経済はいまだ回復軌道に戻っていません。しかし基本的にはこの考え方は間違っていないし、バブル崩壊後のITやプリント板の生産もこのような過程を経て回復に向かうだろうと筆者は予想しています。要するに一度実体経済に沿ったレベルまで戻ってから、実体経済の成長に見合う程度の成長が期待できると思うのです。

 ところで実体経済に沿ったレベルとは何でしょうか。それは最終消費のレベルです。ITは数少ない成長業種ですから、GDP成長率(3%前後が目標とされる)よりも高い成長が期待できるのでしょう。それでも年率10%以上の伸びが10年もつづくとは思えません。希望的に見ても、1999年までの7%成長が今後もつづくとするくらいでしょうか(中国の目指すGDP成長率も7%)。7%でも10年たてば規模が2倍になる高成長です。私たちはすでにテレビ、ケータイ、パソコンに浸かっているので、身の回りのIT機器やサービスが今の2倍にもなった社会や暮らしをちょっと想像できません。次々供給されるモノやサービスをもて余すのではないでしょうか。テレビのチャンネルが増えても、ディジタル化しても、テレビを見る時間は多分そんなに増えません。

 プリント板の潜在的な成長ラインを7%と仮定すると、図2から見られるように、受注額はバブルがはじけて半年あまりで、すでにこの成長ラインまで下がってしまいました。受注額は4年前の水準に逆戻りです。筆者は、そろそろ下げ止まり、近々回復に向かうと予想しています(米国では若干回復の兆しが見えます。図2)。しかしながら、何をもって回復というか。私たちは昨年のピークにすぐ戻ることを期待してはならないと思います。1999年までのペースで成長が継続したとして、昨年のピークに達するまでには6年以上かかる計算になるのです。

 以上は米国のBB比データをもとに筆者なりに考えたことですが、最近の世界経済は同期、連動しているので、世界全体のプリント板需要(パイの大きさ)も大体こんなところではないでしょうか。 日本の製造業にはもう一つ大きな課題があります。海外メーカーとの競争力です。世界全体のパイが上の筋書きで回復するとして、日本企業にまわってくるパイはどの程度になるか。日本のメーカーは、日本にとどまって、才覚を活かしてパイの好みの部分を先取りするか、海外に場所を移して、そこで競争相手とパイの取り合いを演ずるか。いずれの道も平坦ではないでしょう。しかし日本のプリント板産業は1985年の世界的な不況期(PC不況)も乗り切り、再び成長軌道に乗せることに成功しました。今回の不況も必ず乗り切ることができると筆者は信じています。

[1]「IT産業のマクロとミクロ」(日経「大機小機」01/7/10)
[2]http://www.ipc.org/html/BooktoBillHistory.htm
[3]「電子回路産業の現状 2001年版」(JPCA 2001/6)01/7/10)

図1  米国プリント板BB比推移

図2  米国プリント板受注額推移

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