「日本の農業と製造業」
日本の製造業の競争力(労働生産性)は世界第2位といわれます[1]。ちなみに1位は米国、3位韓国、以下、カナダ、ベルギー、オーストラリアの順。その強いはずの日本の製造業が、テレビによれば半数ほどは製造拠点を海外(なかでも中国)に移す計画をもっているということです。エレクトロニクスの海外移転も急速に進んでいます。個々の企業の対応としてはやむを得ないでしょう。ただ製造業が全部この調子で出て行くと日本はこの先何で食っていくのかと心配になります。90年代前半まで世界一とされた日本の国際競争力が今や20何位とか。しかし筆者は、日本の力がたった5〜6年でこんなに落ちたという説に納得できません。失われたのは日本企業、日本人の自信ではないか。マスコミや証券アナリストは、政策がダメ、経営者がダメと言い立て、日本はお先真っ暗と不安をあおります。日本が変わらなければならないのは確かですが、何をどう変えればよいのかについて説得力のある、具体的な提言が欲しい。一番必要なのは「日本は再生できる」という自信をとりもどすことではないでしょうか。 日本で国際競争力が一番弱い部分は「農業」です。中国産のネギや生シイタケが安値でどっと日本に入ってきて、この4月「セーフガード」が暫定発動されました。中国政府は、日本商社が中国に作らせた「開発輸入」ではないかと主張し、報復措置として日本製の車の輸入を実質的に禁止しました。その暫定期間6ヶ月が切れた11月に入るとまた中国産の入荷が一気に増え、生シイタケの東京中央卸売市場への入荷量は全体の50%を超え、価格も岩手産1キロ1200円に対し中国産は294円とか。農業部門では日中の競争力にこんなにも大きな差があります。もう日本の農業は立ち行かないのでしょうか。なくなってもいいものでしょうか。マスコミはグローバリゼーション、市場万能論一色です。それさえ進めていけば、ばら色の未来がひらけるかのようですが、国民の多くは漠然とした不安を感じています。 「食糧庁の世論調査では、日本国民の78.4%が食料の安定供給に「非常に不安、ある程度不安」を感じている。また約92%が多面的機能を有する農業を「残していきたい」と答えている。しかし、もし、この数字が切迫した「国民」の本音であれば、新聞などがもっと事態の深刻さを報道してもよいはずだ。現実には、農業・農村の報道はきわめて少ない。 なぜこうしたギャップが生ずるのか。多くの都市民の間には次のような意見が眠っているからだろう。「消費者が安いものを食べられるのだから、よいではないか」「国際市場で通用しない農業経営などつぶれても仕方がないのではないか」 もっと率直な言い方をすれば、誰もが農業をマイナーな問題だと思い込んでいる。国民所得や就業人口に占める農業の比重が下がっていることを考えれば当然の反応かもしれない。…食料の安定供給に不安は感じても、貿易黒字があるかぎり、輸入で安い農産物を買った方が楽である。わざわざ高いお金を払ってまで、日本の農業を守る必要は感じていない…「つぶれる自治体が出ても構わない」「住めない地域は放棄して皆都市に住めばよい」という暴論もある」[2]。 世界的に食糧安保ということがいわれます。日本のマスコミでも言葉はときどき登場しますが、具体的な政策としてはあまり進んでいないようです。表は日本とヨーロッパ諸国との農産物自給率の推移です。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
イギリス、ドイツ、フランスが着実に自給率を高めてきているのに日本の自給率だけが大きく落ちています。ヨーロッパの3国が自給率を向上できたのは国民に食糧安保についてコンセンサスがあったからだと思います。日本ではコンセンサスが得られないため何もしない、そして成り行きで自給率が下がっていく。自給率の向上は日本では無理なのでしょうか。しかしGNP世界3位の経済大国ドイツが食糧自給率を100%まで上げている。なぜドイツでそれが可能となったのか。それはドイツに農業を守るというきっぱりした意思があったからだと思います。 このほど中国はWTOに加盟しました。これで中国でも国際ルールにのっとった経済活動ができると内外で歓迎されています。しかし中国にとってWTO加盟後最大の課題は農業といわれます。朱よう基首相は「最大のチャレンジは農業だ。生産規模が小さく、競争力がない。海外から多量の農産物が入ると、農家の収入は大きな打撃を受けかねない。…中国は所得水準の低い8,9億の農民を抱えている」といっています[3]。 中国農村の現状について生々しい報告があります[4]。「…近代以降の中国の社会問題が、最終的には土地問題であり、孫文や毛沢東の革命が、こうした問題に対する彼らの思考や実践から始まった。周恩来は25年もの間「深淵に臨むがごとく、薄氷を踏むがごとき」状況が毎年続き、食糧問題と治水問題をいつも気にかけていたと心情を吐露したことがある。…中国の農村人口は9億、農村の労働人口で見ても3億強。1人あたりの平均耕地面積は日本の1/3に過ぎない。現在の需要や技術水準からみれば、中国の農業人口は1億あれば十分である。少なくとも2億以上の労働力が移転を余儀なくされる。扶養家族を含めると4億もの食い扶持がなくなる。彼らはどこに行くのか。出国する少数のエリート、リスクを冒す少数の不法移民を除いた数億人はどうなるか。誰もが必要としない「剰余」人口となるしかない。…新しい世代の農村労働力は、テレビを通じて、農業などを続けるよりは、都市に出かけていって雑業に従事した方がましと考えている。都市でゴミ拾いをしている方が農作業をするよりずっとましだと思う農民、どうせ死ぬなら都市で死にたいと思う農民さえいる。『ああ、野麦峠』がいまの中国の地方にある…」中国の低賃金はこうした人たちによって支えられているのです。一国の競争力とは何なのかと考えさせられます。 WTOの会議では、農業問題で自由化の徹底を求める輸出国と、一定の保護を残したい日欧が対立しました。ヨーロッパの考え方ははっきりしています。「基本原則は、食糧についての国家主権と、家畜を含めた基幹作物の自給自足を認めること。食料主権を認知すれば、輸入に対する保護措置は必然の選択」と [5]。 日本でも、国の安全のために、農業を、地方を守れ、中小企業こそが競争力の源泉、という声が高まってきました。しかしまだ多くの日本人にとって切実な自分の問題とはなっていません。筆者も日本農業の必要はわかっても、自立はほとんど不可能でないかと思っていました。今までのように既存農家を保護し、価格を維持し、道路を造るだけではもう限界です。しかし筆者は最近、規模を拡大し、生産性、さらに経営意識も高めていけば、日本の農業を国際競争力あるものにすることは十分可能なのだという論文を読んで大変心強く思いました[6]。国全体のコンセンサスを得て、なんとか農業を守り、環境を守り、食糧自給率も高めて欲しいと願っています。 さて、日本の製造業はどうでしょうか。ここまで「日本の農業」について述べてきたことはそのまま「日本の製造業」についてもあてはまるのではないか筆者は考えます。みんながもう国内生産は無理だと思えば本当にだめになる。しかし本当にだめなのか。 中国の朱よう基首相がいっています。「日本は経済が減速し、マイナス成長に陥っているが、日本経済のファンダメンタルズは強い。表面だけでなく本質を見なければならない。日本経済について困難を過大視し、その実力を過小評価するのは誤りだ。日本はいかなる困難に直面しても世界の経済大国としての地位はゆるがない。必ず日本は自分の努力で解決できる。中国が追いつけるのは何年かかるかわからない[2]」と。 日本にはいま、製造業を守るという強い意志とコンセンサス、そしてそれは可能だという自信が必要ではないかと思います。
社団法人日本プリント回路工業会 Japan Printed Circuit Association | |||||||||||||||||||||||||||||||