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冬休みに小学生が3人、算数や漢字のドリルを抱えてやってきました。漢字を毎日何ページも書くのも根気がいることですが、算数のドリルが難しい。たとえば、小学5年の問題。 「電車が1600mの鉄橋を渡るのに90秒かかりました。また1200mのトンネルを抜けるのに70秒かかりました。列車の時速と列車の長さを求めなさい。」 これは「つるかめ算」つまり連立方程式の問題です。小学5年生はこれが分からないという。ノートをのぞくと問題に出てくる4つの数字をやみくもに足したり、引いたり、掛けたり、書き散らしてある。筆者が「走る距離を速さで割れば、かかった時間が出せるでしょう」というと、わかるという。そこで次の2つの式を書いて見せるとそれも理解できる。 (鉄橋の長さ+電車の長さ)÷電車の速さ=鉄橋を通過する時間 (式1) (トンネルの長さ+電車の長さ)÷電車の速さ=トンネルを通過する時間 (式2) この2つの式の両方が成り立つ「電車の長さ」と「速さ」を探せばそれが答。計算で求めるには少しワザがいるが、適当に数字を入れてみて、両方の式が成立すればそれでもよい。解き方の一つとして、式1 から 式2を引いてみる。 (鉄橋の長さ−トンネルの長さ)÷電車の速さ=鉄橋通過時間−トンネル通過時間 (式3) (式3)中、長さと時間は全部与えられているから、「電車の速さ」は、 電車の速さ=(鉄橋の長さ−トンネルの長さ)÷(鉄橋通過時間−トンネル通過時間)(式4) と求められる。「電車の速さ」が分かれば式1 から「電車の長さ」も計算できる、と説明しました。小学5年はこの説明で理解したようです。しかしそばで見ていた母親が納得しない。塾ではそんな教え方をしない、連立方程式を使わないで求めなければならない、といって子どもにもう一度教えにかかります。「鉄橋の長さとトンネルの長さはどれだけ違うのよ。それから、電車が通過するのにかかる時間はどれだけ違う? 距離の差を時間の差で割れば速さが出るじゃないの」とたたみかけます。子どもはうんざり。 そこで筆者と母親で口論になります。「そんな解き方のパターンばかり教えてもだめだ。答が出たとしても本人は全然分かっていないじゃないか」というと、「代数や連立方程式こそパターンじゃないの。連立方程式は習ってないのよ」と。筆者も負けていません。「連立方程式が解けなくてもいい。式1 、式2を立てることに意味がある。式が立てられるのは問題を整理できた、理解できたということだ。そこまでできれば問題は解けたも同然」とがんばります。これでは塾の先生はつとまりませんが。 中学入試問題がどうなっているかなと本屋をのぞいてみると、参考書や問題集が棚を埋め尽くしています。1冊買って見ましたが、出ている問題はどれも難しい。この問題集にはタイプ別に問題が並んでいます。そのタイプがすごい。「和差算、相当算、つるかめ算、差集め算、年令算、売買損益、濃さの問題、仕事算、ニュートン算、植木算、推理算...」。つるかめ算や植木算はなつかしいが、他はよく分かりません。しかし全部どこかの中学で出題された問題なのです。 ついでに大学入試センター試験の問題も見てみました[2]。数学の問題(第5問)、「1から8までの整数が書かれたカードが8枚ある。カードを引いて、賞金を得るゲームをする...」
問(2) カードを1枚引いて受け取る金額からゲーム代を引いた金額の平均Nは、 解答は解答用紙の 国語の問題(第2問)。「次の文章は、野呂邦のぶ『白桃』の一節で、戦後の食糧難の時代を背景にしている。ある日、少年とその兄は、かつて父の使用人であった酒場の主人のところへ使いに出された。これを読んで、後の問に答えよ。」とあり、その後に『秋であった。医師は妹の肺炎にペニシリンがいるとつげた。金さえあれば解決することである。九歳と十二歳の兄弟は包みをもたされて、店へやって来た...』と5000字もの文章がつづきます。鮨用の米と称して、屑米やぬかを混ぜた米を売りに行かされた子供の話です。設問の一部。「『たたずまい』の意味として最も適当なものは次のうちどれか。@けはい、Aいごこち、Bにおい、Cしずけさ、Dありさま。『のっぴきならない』の意味はどれか...と並んでいます。この問題は数学よりずっと面白い。5000字の短編は読んでいるうちに、試験問題であることをわすれそうになります。 数学ぎらいはどこで生まれるのか。まず学校の授業が分からないからでしょう。分からないからできない、好きになれない、敬遠となる。学習の不足もあるでしょう。素直な課題を繰り返しやっているうちに身体で覚える、これは人間でも動物でも学習の基本です。ドリルの意味は反復練習です。その反復が少ない。出題がひねりすぎで、日常の体験から遊離しているのも問題です(ツルとカメがいる。それを見たとき、両方合わせた足の数から数えますか。まずそれぞれ何匹と数えるのが自然でしょう)。文部科学省が行なった学力テストで「小5では円の面積計算の正答率が53.3%で、93〜95年度の調査より15.8.ポイント下回った」そうです[3]。これも子供の知能が急に落ちたことを意味しません。 そもそも円の面積計算の公式 円の面積=半径の2乗×円周率 は自明ではない。これは覚えるしかないのか。円周=直径×円周率 は子どもに分かります。円周率(π)の定義であり、ビンのふたをころがして確かめることもできます。しかし、円周の式から面積の式がどうして出てくるのか。みなさん、子どもに訊かれたらどう説明しますか。小学生でも順を追って説明すれば理解する力はあります。ただし話が飛躍するともう分からない。親は子供にしつこく「どうして?」と訊かれ、「そうなっているの!」と声を張り上げたりしますが。筆者は散歩の途中、円の面積の説明法をひとつ考えてみました。 1辺Dの正方形と直径Dの円の面積を考える。これに下図のようにはさみを入れ、同じ幅のいくつかの額縁とリングに分割し、それぞれの面積を比較する。 ![]() 額縁1の面積は4D×幅、リング1の面積はπD×幅。従ってリングの面積は額縁の面積のπ/4倍。額縁2とリング2の面積についても同じく比率はπ/4倍となる。以下同様にどのリングの面積も額縁面積のπ/4倍となる。これら額縁とリングを全部合わせると、正方形と円になるから、円の面積は正方形の面積のπ/4倍となる。すなわち、円の面積=直径Dの2乗×π/4、半径で表すと、円の面積=半径Rの2乗×π となる。こんな説明をすると、また母親に「それは積分じゃないの」と文句をいわれそうですが、考え方は小学生でも分かると思います。 今、電子機器の高速、高周波化で電磁障害(EMI)対策が大きな課題になっています。EMIの先生方は、この現象を理解するには伝送線路や特性インピーダンスを理解するだけでは不十分で、電磁波理論を理解しなければならないといいます。電磁波は下に示すマックスウェルの4つの基礎方程式だけで記述されます。
大変難しい式で、一つひとつが深い物理的な内容を含んでいます。マックスウェルはよくぞこんな抽象的な式や、電波が空間を走るなどと考え付いたものです。筆者はノーベル物理学賞を受けた朝永振一郎さんの話を聞いたことがあります。先生によればマックスウェルも最初は、空間に無数の歯車が埋まっていて、一箇所の歯車をまわすと、それによって空間全体の歯車が回るというモデルで考えたそうです。天才にして最初から抽象的に考えるのではない、と教えられました。 電磁波やプリント板のEMIもわれわれ素人が体感できるようにやさしく説明してくれる先生が現れないかと期待しています。 |
| [1] | 江村敏行「文章題解き方の特訓」(学研1990) |
| [2] | 「入試センター試験」(朝日03/1/19, 20) |
| [3] | 遠山文科相「基礎学力低下」(朝日03/1/12) |

