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「算数教室」

 小中学生の学力テストで「半径10cmの円の面積」(小学5年)の正答率が53%と期待値を大きく下回った(前回より16ポイントダウン)ことが注目を集めました[1]。314cm2の正答に対し、31.4 cm2や62.8 cm2と答えたのが合せて17%もいます。どうやら「半径×3.14」や「直径×3.14」としたようです。知り合いの小学生に「円の面積は?」と聞くと即座に「半径×半径×3.14でしょ」と返ってきました。なるほど、半径の2乗じゃなくて、「半径かける半径」なのかと感心しつつ、「えらい。できる方の半分に入っているか」とほめてやりました。その母親との会話、「5年生でできない子は6年生になったら、中学に入ったら、できるようになるかな」、「多分だめ。わからないまま大人になるのでしょう」。大人になって研究や開発の仕事につく子は多くはないでしょうが、面積がわからなければ、体積もわからない。日常生活にも困ったり、だまされたりしないかと心配になります。

 文部科学省は「方眼紙でマス目の数を数えるなど面積を実感的にとらえられるように...」といっています。確かに、半径10cmの円内には直径10cmの正方形(面積100 cm2)がすっぽり入るから、31.4 cm2や62.8 cm2が正答になるはずがない。「円は正方形の角が取れて丸くなったもの」という感覚を身につけて欲しいと思います。新聞の見出しの通り「円の面積、実感できず」なのです。しかし、マス目を数えるだけでは「半径かける半径かける...」の公式は出てこない。学校や塾では公式をどうやって教えているのかなと、教科書をのぞいたり参考書を立ち読みしてみました。なるほどいろいろ工夫はされています。ある教科書では円の面積の求め方を、マス目を数えるところから始め、公式をみちびくまでに8ページも費やしています。かたや参考書では「半径かける半径かける...」の公式が太枠で囲ってあり、それを覚えさせて、あとはひたすらドリル。母親にいわせるとどちらも問題。教科書は、説明はていねいながら練習の時間がない。また、紙の上だけの長い説明に子どもがついていけるか。塾は公式一辺倒。答えは速いが、間違えればリカバリーは不可。理屈を教えないから、「なぜ、なぜ」と考え込む子はフラストレーションを覚えそう。

 文部科学省の新基準では、みんなが理解できるレベルにと教科書のレベルをさらに下げました。上記小学6年生は5年生に習ったことをまたやっているとぶつぶついっています。今まで小学校の基準に入っていた円錐の体積の公式は今回なくなりました。球の体積は高校1年になっても教えない。いま、大学生の学力低下が大きな問題になっていますが、入学試験問題は結構むつかしい。大学が送り出す卒業生には大卒としての最低限の学力レベルが社会的に求められるからです(充たしているかどうかは別にして)。小中学校のレベルがどんどん引き下げられる一方、大学の講義のレベルは変えられないとするとしわ寄せは高校にいきます。本屋で参考書をパラパラとめくると、高校で内容が急にむつかしくなるのがわかります。円錐や球の体積の公式も積分を使って求めている。これでは高校で落ちこぼれるのは当然と思いました。ある大学の先生にこの話をすると、大学も同じで、進級できない学生が30%もいると。保護者を集めて説明したら親のほうが青くなったそうです。

 学力テストで子どもが間違える原因には、どの科目でも「生活体験の不足」があげられています。問題に出てくる数字(半径や円周率)を適当に組み合わせて、かけたり割ったりして答えにする。自分でも答えに確信がないので「アテカン」という。「アテカンが当たった、はずれた」などといっている。

 そこで筆者は、算数の重要な公式を、積分などに頼らず、身の回りの物を使って導き出すことを思い立ちました。日々、歩きながら方法を考えて、台所で野菜や果物を使って試してみました。これを使えば小中学生にも公式を基礎から教えることができるはずです。子どもも興味を持つのではないかと思っているのですがどうでしょうか。取り上げる公式は次の4つ。

 公式1 円の面積=半径×半径×円周率
 公式2 角錐(円錐)の体積=底面×高さ÷3
 公式3 球の表面積=4×半径×半径×円周率
 公式4 球の体積=4÷3×半径×半径×半径×円周率

 公式1の導き方は以前本コラムで私案を紹介しました。それは円の面積と正方形の面積を比較する方法ですが、教科書に別の方法が載っていました。その方法は、円を放射状に分割して右図のように並べかえると平行四辺形になるので、公式:面積=πr2が求められる、とするものです。これはうまい説明ですが、図だけで理解させるのはむつかしそうなので、筆者は輪切りにしたニンジンを使ってやってみました。子どもでもチンパンジーでもこの方が関心を示すでしょう。

 公式2では「3で割る」ところの説明がむつかしい。以下は筆者が苦心して考えた方法です。1辺aの立方体を斜め方向に半分に切る(図2a )。できた3角柱をまた斜めに切る(図2bの点線に沿って切る )。すると、四角錐(底面a2×高さa)と三角錐(底面a2/2×高さa)に分かれる(図2c )。立方体全体では四角錐2個と三角錐2個ができますが、三角錐2個は四角錐1個分の体積と同じですから(なぜなら三角錐の底面は四角錐の半分)、結局、立方体の体積は四角錐3個分となる。従って、次の公式が導かれます。

  四角錐の体積=立方体の体積×1/3

  筆者はダイコンのさいころを作って確かめました。前述の先生は羊羹のほうがよいのではといいましたが、たしかに羊羹かケーキのほうが大きい小さいが実感できるでしょう。

 公式3の説明にはグレープフルーツを輪切りにしたものを使います(挿絵)。一定の厚さで輪切りにしたグレープフルーツの「皮」の面積は、一見不思議なことに、中央部分から端っこまでどの切れも同じです(端に行くと径は小さくなるが傾斜が大きくなるため)。この性質を使うと公式3が導かれます。 公式4の説明にスイカを買ってきました。これを挿絵のように切るとたくさんの三角錐、四角錐ができます。それらを全部合せると、底面の面積は球の表面積になる。また角錐の高さは球の半径。これより球の体積の公式が出てきます。食材を教材にすれば、抽象的な面積や体積もいくらか体でわかるようになるのではないでしょうか。

 身近にある算数の問題。トイレットペーパーの紙の厚さはどれくらいか。ちょっと計算してみました。トイレットペーパーの外形は10cm、内径は4cm。紙の部分の面積を計算すると6594mm2となります。包み紙には長さ60mと書いてあります。従って、紙の厚さは、

 t=6594/60000=0.11mm となる。これは新札の約2倍、髪の毛の太さの約1.5倍です。  最後にプリント配線板のデザインルールについて。日頃、ライン・アンド・スペース100μmなどといっていますが、さて、このルールで、10cm角の片面板に最大何mの長さの配線が引けるでしょうか。ライン・アンド・スペース100μmの場合、配線のピッチは200μm(0.2mm)、したがって配線長Lは、

 L=100*100/0.2=50000mm=50m と計算されます(トイレットペーパーと同じオーダー)。

 配線の引き回しを平行、放射状、渦巻きなど、どう工夫してもこの長さを超えることはできません。実際、プリント配線板の配線長はこの長さの30〜50%程度といわれます[2]。

[1]「学力テスト分析公表」(朝日03/5/13)
[2]塚田 裕「ビルドアップ配線板入門」(日刊工業1998)

算数教室の教材 − ダイコン、グレープフルーツ、スイカ

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