JPCA NEWS 2003.7

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号




「唐津ぶしとモノづくり」

 JAPCAショーで久しぶりに唐津一先生の講演を聴きました。唐津さんは永年日本のものづくり教育を引っ張ってきた人ですが、その熱っぽい語り口と日本の技術、競争力への思い入れで、聴衆を元気にする人としても有名です。

 筆者は昔、統計的品質管理・実験計画法の講座で何度か唐津さんに教わりました。当時、日本はようやく戦後復興を終え、独自の製品で世界に打って出はじめた高度成長期のはしりでした。池田勇人首相が「トランジスタの商人」と揶揄されたのはその少し後のことです。「安かろう、悪かろう」といわれた戦前の日本製品の品質イメージをどうやって高めるか、そのためにアメリカから導入された科学的な品質管理手法に基づく品質改善運動が日科技連や日本能率協会を中心に情熱的にすすめられていました。筆者が感動するのはこのような運動に一流の新進気鋭の学者、研究者が大勢参加されたことです。東大の森口教授、石川、朝香、増山先生、電電公社通信研究所(通研)からは茅野、唐津、田口先生などそうそうたる先生方が長期にわたる講座に馳せ参じられた当時の品質向上に向けた熱気を感じたものです。森口先生の統計手法の明快な数学的基礎、増山、田口先生の実験計画法の原理と応用の講義などは今も印象に残っています。増山先生は日本の推計学の草分けで、サリドマイド事件では推計学の立場からするどい批判を展開されました。田口先生は、プリンストン大学教授などを務め、品質工学(タグチメソッド)の指導を通して米自動車産業に貢献したことで米国自動車殿堂入りしたという先生です。唐津さんの講義内容は忘れましたが、唐津さんが「わが人生の師と仰ぐ」西堀栄三郎さんの戦時中の業績を熱っぽく語ったものです。唐津さんはまだ40代でしたが、聴く人を引きつける唐津ぶしはいまと同じでした。西堀さんの逸話については後で触れますが、まずJPCAショーでの唐津さんの話を簡単に紹介しておきます(筆者の理解による要約で、唐津さんの別のインタビュー記事も参考にしました)[1]。

 「マスコミの論調では、日本の現状について悲観的な見方が多いが、それは正しいか。具体的な数字でみて欲しい。日本は面積で世界の0.3%、人口で2.1%を占めるに過ぎないが、GDPは2001年でも15%を占めている。日本が世界のトップを握る製品は、乗用車、造船などの機械・装置、VTR、CD、MD等の家電・電子機器、半導体用シリコン、封止材、セラミックパッケージ等の電子材料・部品など数多い。マスコミは全体的な日本製品の強さを知らない。図a、bは海外との技術交流の構成、収支をに示す。今や日本は技術輸出も世界一であり、その技術を最もたくさん買っているのがアメリカである。とくにIT分野では、日本の技術を使わなければ何もできない。基礎特許の部分では遅れているといわれるがそれも『常識のウソ』。アメリカの特許取得件数をみると上位10社のほとんどを日本企業が占めている(2002年)。

 日本の製造業のこうした強みをもたらすのは何か。それはモノづくりから生まれる『付加価値』である。付加価値は日本経済の原点であり、日本が世界に貢献できる唯一の道である。金ころがしで儲けようなんて、日本人には向かない。日本の製造業は、他国でつくれないモノ、考えもしなかったような新技術を開発しようと努力してきた。つまり、オンリーワンの技術を追求してきた。中小企業の中にもオンリーワンの技術を有しているところが少なくない。モノづくりは、非常に細かなことの積み重ねであり、一部分でも手を抜くと優れたモノはできない。日本の素晴らしさは手抜きをしないことで、これは国民性といってもいい。それを支えているのが、製品の一部品、一技術を担っている中小企業なのである。日本にあるオンリーワン企業の凄味を、もっと認識してほしい。

 確かに製造業の海外生産比率はこの10年で14%から24%にも高まった。その結果、家電や自動車などの耐久消費財の輸出は減少している。反面、資本財輸出はこの10年で40%も伸びている。日本の自動車産業は海外生産で業績を拡大しているのである。

 それではこのままで日本の製造業は安泰か。そうではない。技術というものは、だいたい10年もすると、すっかり様子が変わってしまう(図c)。日本の強さはその変化への対応力にあるのである。「日本が世界一」の産業が多いのも、変化をつくり出すスピードに優れていたことが要因になっているからだ。

 これからの日本はどのように変わっていくのか。まず知っておきたいのは、日本は貿易に依存している国ではないということ。日本の輸出はGDPの9.6%、輸入は7.2%に過ぎない(1999年)。これはアメリカに次いで低い比率で、日本の次に低いイギリスですら輸出18.6%、輸入22.1%である。以下ドイツ、フランスなどがつづき、韓国では輸出35.6%、輸入29.4%、香港、シンガポールでは100%以上になっている。日本のGDPのほとんどは国内需要でまかなわれているのである。

 ついで、日本の所帯あたりの貯蓄残高が世界一であること、GDPに占める個人消費の比率が一貫して増加していること、個人消費の中で旅行、外食サービスの比率が上がっていることに注目したい。過去30年を通してみると、「生活感覚」に占める衣食住、耐久消費財の比重が一貫して下がる一方、レジャー・余暇・サービスの比重が15%から35%へと急上昇している。実際、平成11年の事業収入を5年前と比較すると、製造業マイナス、小売業横ばいに対して、サービス業は30%もの増加となっている。業種別就業者についても同じ傾向にある。日本が個人消費主体のサービス社会に移行することは間違いない。このような社会構造の変化に対応することを考えなければならない。」

 技術革新の方向はどうか。唐津さんは次の6つのキーワードをあげました。@IT化、A新材料、Bバイオ、Cエネルギー、D環境関係(産業廃棄物処理)、E宇宙開発。最後に注目株として光関係の産業をあげ、10年前にはほとんど注目されなかった光産業が、規模で鉄鋼業界に迫る勢いで成長していると、時代の変化の速さを強調して講演を終えました。

 唐津さんの話の持ち味は、@長期、マクロの視点、A技術の細部より社会や文化の変化を読む、B日本、ものづくりへの思い入れと、現場、現実、現物の三現主義、C豊富な統計数字、といえるでしょうか。

 筆者が昔、唐津さんから聞いた西堀栄三郎さんの話は、大戦末期、東芝での真空管の歩留向上対策の話です。西堀さんは第一次南極越冬隊長として有名ですが、日本の統計的品質管理の草分けとして忘れることができません。当時、東芝では真空管の製造不良が多くて困っていました。ヒーターに通電してもカソードから電子が出てこない真空管が多発していたのです。西堀さんは現場と生産履歴を徹底的に調べて、特定の女性が組立てた真空管に限って不良が発生すること、さらに分析していくと、その女性の使っている化粧品中のある成分(塩素?)が電子のエミッションを阻害している原因物質であることを突き止めました。戦後、アメリカから専門家がやってきて、その結果におどろいた。アメリカでも同じ「真空管エミッション不良」が発生していて、実験による解析的な方法で同じ原因物質を突き止めていたというのです。

 ところが最近、新聞で次の記事をみておどろきました[2]。三井金属の次期社長に決まっている槇原さんの紹介記事です。「槇原氏は、1989年、赤字続きで撤退論が大勢だった液晶表示装置(LCD)向け電子部品事業の立て直しを任された。辞令が出ると下関市の工場に直行。『歩留まり20%を80%に、月産100万個を日産1000万個に引き上げる』と公約した。その後1年かけて工場を徹底的に調べ上げ、生産部門の女性が使う化粧品に含まれる素材が低い歩留まりの原因だと突き止めた。撤退を免れた同事業の売上高は年間数百億円に育った。」  製品は10年単位で代わっても、ものづくりの改善手法は60年経っても変わっていないのです。ものづくりへのこの思いが若い世代に受け継がれていく限り、日本の競争力が衰退することはないでしょう。

[1]唐津一「変化する日本」(JPCA2003基調講演)
[2]「傍流で鍛えた現場主義貫く」(日経3/6/13)

西堀、唐津、田口先生はみな自前の技術のこだわった。自前の装備と技術で次の山を目指そう。

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号

社団法人日本プリント回路工業会
Japan Printed Circuit Association