JPCA NEWS 2003.10

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「治工具の費用」

 「ものづくり」の大切さを説く議論があふれています。しかし、みずから「ものづくり」の世界に入っていこうという若者は少ない。昔ながらの職人仕事や菜っ葉服で現場に立つ仕事を若者は敬遠するのでしょう。きついし、カッコよくないし、女性にもてない、と。カッコよくて楽な仕事などあるわけないが若者を責めることはできません。そのような風潮を最近の大人、若者の親の世代が作ってきたのですから。「変わる、変える」が合言葉で、変わり身の早いスマートボーイがはやされ、一方、現場を取り仕切り、一目置かれてきた大工場の職長や熟練工、中小企業の創業者たちは、時代遅れ、融通が利かないと姿を消していったのです。

 このような傾向は日本だけではないようです。ドイツでもある経営者は、若者がみな大学に行きたがり、マイスターコースを選ぶ若者が減った、と嘆いていました。韓国や中国で指導した人によると、大卒技術者はおおむねよく勉強するが現場にはあまり行かない、報告だけで判断する傾向があるということです。かつて日本では大卒技術者が作業服で現場にもぐりこむのは普通でしたが、いまはどうでしょうか。

 最近の新日鉄やブリッジストンでの大事故では安全管理面での不備や設備の老朽化か指摘される一方、トラブル時に適切な処置のとれる熟練した現場技術者の不足、高齢化が心配されています。客船の火災事故を起こした造船業界では「業界の存立にかかわるテーマ」と危機感をつのらせます。ただし筆者は、熟練技術者の育成、技能の伝承だけでなく、その人たち、さらには、こつこつ「ものづくり」にかかわる企業に対しても、社会がその役割を認め、当事者も自負と誇りを持てる、社会の空気を作っていくことが欠かせないと思います。日陰にしておいて育つわけがない。

 さて、モノづくりに欠かせない仕様書、治具について。モノが注文されるとき仕様書や図面が支給されますが、得意先によっては「製品の性能や品質は支給する仕様書だけで決まる」と考えているところがあるのではないか。それは大きな錯覚です。受注したメーカーは支給された仕様書や図面を元に、製造設備、作業者のスキル、製造能力を勘案して、使用材料、設備の選択、製造条件の決定、支給データの補正を行って治工具を準備し、モノの製造にかかります。メーカーで作成する製造仕様書は支給された購入仕様書のコピーではなく、治工具は支給図面、データを機械にかけただけでできるものではありません。それぞれの中には受注メーカーの「ものづくり」の技術が凝集しているのです。その意味で得意先は、治具費用を払いさえすれば自分のもの、メーカーの了解なしに自由にできるとはいえません。日本の外注先から金型を引き上げて、中国でモノを作らせるという不届きな大企業もあるとか。

 プリント板メーカーも永年、治工具に悩まされてきました。まず、治工具代をなかなか払ってくれない。また、使用しない治工具をいつまでも保管しなければならない、など。JPCAでは何回もプリント板ユーザーに是正の「お願い」をしていますが効果のほどはどうでしょうか。最近出されたJPCAの「お願い」の抜粋を以下に掲げます(一部字句筆者変更)が、きわめて低姿勢、控えめで、じれったいくらいです。相手は負担を増やしたくないから馬の耳に念仏で、聞き流されることになっていないでしょうか。

 「... また、プリント板メーカからお得意様にお願いしております製版、金型、検査冶具、各種データならびにリピート品初期費用、ロット別係数等といった各種項目について、未だ一部においてご理解頂いていない場合もあるやに伺っております。

 厳しい経営局面といえども、プリント板業界としては、供給責任のみならず、高密度化、および環境にも対応した製品造りを全うして参る所存でありますので、何とぞお得意様各位のご支援を申し上げる次第であります。

 ...お得意様各位にお取引条件の改善方お願い申し上げる場合がございますので、ご高配賜わりますようここに重ねてお願い申し上げる次第であります」 [1]。

 「JPCAは平成5年度から「経営改善協議会」を設置し、「お取扱い改善について」(お願い)文書を作成し関係各方面のご理解をお願いして参りました。 ...しかしながらプリント配線板メーカがお得意様よりお預かりしております、金型、電気検査治具、印刷版、フィルムの保管については、保管期限のご指示も無いまま保管数量だけが膨大になり、その為に保管場所の確保や保管整備、運搬やメンテナンス等、保管管理には細心の注意と莫大な経費が嵩むといった状況の中で、保管費用及びリピート品の発注に際しての諸費用について、未だ一部においてご理解頂いていない場合もあるやに伺っております。当該費用については何卒改善いただき、以下のようにお取扱い願いたく、ここに伏して重ねてお願い申し上げます。

 ● リジッド用金型
 製作日より2年経過したもの、又は最終受注以降6ヶ月間発注の無いものは返却又は廃棄する(ことがある)。廃棄の場合は処分費用、「保管」を依頼された場合は保管費用の負担をお願いする(ことがある)。(法定耐用年数は2年です)

 ● 電気検査治具
 製作日より1年経過したもの、又は最終受注以降6ヶ月間発注の無いものは返却又は廃棄する(ことがある)。廃棄の場合は処分費用、「保管」を依頼された場合は保管費用の負担をお願いする(ことがある)。リピート品発注の場合は、再使用可の治具については再調整代を、再使用不可の場合は再作費用をお願いする(ことがある)」 [2]。

 まず、治具代を払わない得意先について。例えば「電気検査治具代は払わないのが我が社のルール。これまでそうしてきた」という得意先があります。「不良品を作っておいて、その検査に治具が要る?それはメーカーの責任じゃないか」と。そういう人は二重に間違っています。@技術レベルの高低は別にして、検査抜きで出荷はできない。特定客先の特定図番向けの検査費用をその図番に課さなければ、費用は共通経費として他の客先、図番に薄めて課すことになる。つまり人のフンドシで検査することを要求している。これは不公正。Aいままで払ってこなかった、という。しかし状況が変わっている。量産品も多種少量品も一括発注されていた時代は、得意先ごとにトータルで勘定を合せることもできたが、量産品は海外生産に移り、多種少量品だけ国内に残る状況では治具費の割合が高くなりすぎ、海外並を要求される製品価格への上乗せも難しい。昔はよくても今はダメ、ということです。

 次に治具の保管費用。筆者は、駅前の放置自転車の扱いやトランクルームの費用が参考になると思います。JPCAの「お願い」は全く正当ですが、お金を出したくない得意先を説得するにはプリント板以外の規制や事例を出した方が説得力がある。

 どの自治体とも放置自転車の扱いに苦労しています(横浜市ではH13年、11万台の自転車を移動、うち4万台を廃棄。廃棄だけに2000万円かかった)。各市、条例を設けていますが以下は長岡市の例。

 駐輪場の自転車に利用調査票(黄色)を付ける。付けられたら1週間以内に自転車を持ち帰ること。期間内に持っていかなければ撤去の警告書(赤色)を付ける。1週間以内に移動させなければ放置物件とみなし、違反自転車保管場所に移す。

 保管期間は6ヶ月間。この間に引き取りにきた場合の返還手数料は1,400円。6ヶ月を経過すると所有権は市に移る。

   保管期間や手数料は市によって異なり、保管期間44日、保管費用は9日以下なら1,600円、15日以上で2,500円、など。どこも費用は持ち出しだが、高くすると取りにこなくなる心配があるとのこと。

  以下はトランクルームの月額利用料の例。
・ 単品保管  ダンボール箱1個   500円〜
・ スペース保管 1坪 3,500円〜6,000円程度(空調完備の場合は高くなる)
これらの費用をプリント板製造用治具の保管に当てはめるとどうなるでしょうか。

 最後に環境保全に関する文章を挙げておきます。著者は環境意識を高めるには経済的インセンティブの組み込みと、規制、罰則の強化が不可欠と強調しています。

 「環境問題が深刻化するにつれて、わたしたちのライフスタイルを、環境負荷の低いものに変えることの必要性が盛んに議論されるようになってきた。これにともなって、環境倫理や環境教育の重要性を主張する意見がしばしば見られるようになってきた。

 しかし、これらの議論の多くは、環境の大切さを唱えたり、リサイクルの必要性やエネルギー消費節約の必要性を唱えるだけであり、人びとの良心、モラルに頼ったものが多い。

 このような議論の重要性を否定するものではない。しかし、モラルや良心だけに頼るようなやり方では、なかなか環境保全に無関心な人や企業の行動を変えることはできない。

 ...それによる不便さや費用負担が大きくなればなるほど、環境保全的な行動をとる人や企業の割合は低下する。

 ...このように、人びとの良心やモラルだけに頼って環境を保全することは、一部の良心的な人びと・企業の負担(費用負担、不便さ)を重くし、そうでない人びと・企業を相対的に有利にすることになる」[3]。

[1]JPCA信「片面プリント配線板の取引条件改善について(お願い)」(JPCA 03/8/8)
[2]JPCA信「プリント配線板製造における金型、電気検査治具、印刷版、フィルムのお取扱い改善について(お願い)」(JPCA 03/5/21)
[3]日引、有村「入門 環境経済学」(中公新書)

ボクの持ち主はどこ...自転車が泣いている

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