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JPCA NEWS 2003.12 JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号 「プリント板業界と知的財産」 |
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中国は最近まで知的所有権に関しては無法地帯でした。映画「ハリー・ポッターと賢者の石」が米国で公開されて4日目に、中国でそのDVD(150円)が売られていたそうです。映画館で隠し撮りされたものがアジアの密造工場で大量複製されたらしい。プリント板関係の日本製機械のコピーが銘板までそっくりでCPCAショーに出品されていたり、プリント板入門書が無断で中国語訳され、JPCAに展示されていたりします。 中国はWTO加盟を期に知的所有権に関する法整備を急いでいますが、現場ではなかなか守られていないようです。日米など海外企業も自社の知的財産を守るために、中国で大量の特許出願を行っており、これに対し中国側には強い危機感があります。インターネットで拾ってみると、「中国における日本の特許出願件数がずっと上昇しており、昨年(2001年?)の出願は1万3736件、前年比38.9%増で、外国からの出願総件数の三分の一強を占める...日本企業は知的所有権戦略と経営戦略の一体化を実施し始めた...北京大学のある教授は、『日本は今や、技術立国から知的所有権による立国へと転換したと言える』と」。「広東省の電子情報産業の中国内での強みは明らかで、生産額、特許出願件数とも全国一である。しかし、広東省情報産業の知的所有権を利用する能力は楽観を許さない。 情報技術は諸先進国のコア技術に対する独占とコントロールの度合いも高い。情報産業部科学技術司は指摘する、中国での特許出願計18万件中、国外からの出願が87.8%を占め、その92.6%は日本、アメリカ、ドイツなどの10カ国からのもの。今日のCDMAはまた昨日のDVDの轍を踏む可能性がある、と」。 実際、日本企業の知的財産に対する認識は大きく変化してきています。日立は「日本企業が気前よく特許を開放できる時代は終わった」とし、重点分野の特許を研究開発時点で「門外不出」に指定、自社で独占する方針に転換した、といわれます[1]。NTTは新しい技術開発が完成しても1年間は公表しないことにした、といいます[2]。自社特許の侵害に対しては積極的に裁判で争う動きもあります。「マネをされて喜んでいるうちは三流、マネに危機感をもつと二流。一流の知財先進企業になると、相手が報復を恐れてマネをしなくなる。目標は米国のIBM」(元特許庁長官、荒井氏)など[1]。
さて、プリント板業界の知的所有権、知的財産の現状はどうでしょうか。図1と図2は本誌「JPCAニュース」に連載されている「パテントノート」[3]から、2001年分(6ヶ月分)と2003年分(8ヶ月分)の計300件あまりのプリント板関係出願特許を分類してみたものです(グラフ)。気づくことは、 @ プリント板関係の特許出願は特定企業に集中している。特に銅張積層板や樹脂など材料メーカからの出願が多く全体の70%近くを占める。プリント板メーカからの出願は30%余りにとどまり、それもイビデンを筆頭に10数社(内専業メーカは数社)に限られている。プリント板の構造、製法といった分野でも日立化成など積層板メーカの出願が多い。プリント板専業メーカはほとんどが自社独自の技術でプリント板を作っているのではなさそうである。 A このパテントノートでは出願をT〜Wの4つの分野に分類している。それぞれの出願数比率を表に示す。この2年でみると、感光性樹脂、接着剤、めっき材料に関する出願が増え、プリント板の構造、製法、基板材料に関する出願は相対的に減少している。 |
| 平成13年 | 平成15年 | |
| プリント板の構造、製法 | 45.2% | 39.3% |
| 基板材料、樹脂 | 36.5% | 31.7% |
| 感光性樹脂、接着剤等、副資材 | 10.6% | 16.4% |
| めっき材料等 | 7.7% | 12.6% |
| 計 | 100.0 % | 100.0% |
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以上からいえることは、特許出願から見る限り、日本のプリント板業界の知的所有権、知的財産は材料メーカ、セットメーカに属するものであって、専業メーカのものではないということです。そして、材料メーカ、装置メーカは自社の知的財産の技術に基づく製品を、国内プリント板メーカだけでなく、海外のメーカにも自由に売ることができるのです。CPCAショー(上海)でも日本の材料メーカ、装置メーカが大々的に出展しています。日本のプリント板専業メーカは、イビデンなど一部を除き、中国と同じ材料、装置を使い、同じ製法で中国メーカと競争しなければならないのです。プリント板専業メーカの知的財産はどこに求めるべきでしょうか。 先日、NTT厚木研究所のR&Dフォーラム2003に出かけました。最近のNTTがどんなR&Dテーマに取り組んでいるかが展示や講演で示されていて興味深かった。なかでも三菱化学のCTO(最高技術責任者)をつとめるステファノポウラス博士(MIT教授)の講演が面白かった[4]。先生は、三菱化学の近年の開発戦略がいかにまずかったか、なぜそうなったか、について大胆に述べることから講演をはじめました。 三菱化学は日本を代表する化学メーカで、その製品分野はきわめて多岐にわたります。しかし先生は、ICIとそっくりだ。何でもやっているが、どれも世界のトップにはない、というのです。ICIは英国の名門、世界的な化学メーカ、ポリエステル繊維を発明した輝かしい歴史を持つ企業です。 先生は、時代が変わったというのです。これまでの化学会社は「プロセス中心」の会社であった。まず化学反応などのプロセスがあって、そのプロセスでつくれる製品はいくつもあるが、その原料(ナフサなど)は単純、製品(ポリエチレンなど)も単純である。技術開発の中心はプロセスの改良(触媒の開発など)であった。しかし、今は違う。まず製品が多種多様になっており、原材料も製造プロセスも多様、複雑化している。どれを選択してどこに集中するかが企業の成長を左右するが、三菱化学には戦略がなかった。下から上がってくるあまたの案件を取捨選択するだけであった。現代の企業では、自社の知的財産にもとづく製品の割合は5%程度、95%は社外の知識、技術に依存しているのだ。社外の知識、技術をどう選択し、統合し、活用するかがこれからの企業戦略であるべきだ、といいます。 イノベーションは、普通「革新」と訳され、私たちは発明・発見との違いをあまり意識していませんが、先生ははっきり区別しています。発明・発見は個人の素質によるもので、そのアイディアがどうして生まれてくるかの道筋はよくわかっていない(poorly understood process)。一方、イノベーションは「新しい技術を最初にうまく事業化すること」と定義し、管理可能なものとしています。これからの企業に求められるのは、発明や発見よりイノベーションなのだと強調しています。イノベーションを進めるプロセスは「知識集約的」であって、さまざまの幅広い資源(科学的、人的、技術的、材料、資金的な資源を整理、統合すること、最も重要なことは、R&Dとマーケティングと事業戦略を統合すること、といっています。三菱化学はこのような考え方に基づき、戦略を「IT関連の材料開発」に定め、大学(京都大学など)、研究所等と包括的な提携を結び、広く社外資源の活用を図っているといいます。 独自の技術開発を進められないプリント板専業メーカは、中国メーカと同じ土俵で競争していかなければなりません。自社の「知的財産」をどこに構築していくかは、それぞれの企業の戦略です。特許出願だけが知的財産ではありません。むしろ自社の戦略に沿う社外の資源の活用が重要となるのでしょう。客先からいわれる通りでなく、材料、装置メーカのセールストークだけでない、幅広い外部の情報への目配りと的確な目利きが求められるのでしょう。 筆者の家から歩いて10分以内のところにラーメン屋が6軒もあります。ひととおり試しましたが、行きつけは2軒だけ。有名でも遠くまでラーメンを食べに行こうとは思いません。店の違いはどこからくるのでしょうか。値段は似たようなもの、食材でも味でも簡単に真似できそうなのに。ラーメン屋の知財とは何なのかと考えることがあります。 プリント板メーカをラーメン屋と並べては失礼かもしれません。しかし目に見える知的財産で保護されていないことにおいては共通しています。各企業それぞれ、目に見えない知財をどう構築していくかが課題なのでしょう。 |
| [1] | 「知的財産立国の条件」(日経03/11/26) |
| [2] | NTT先端研所長(NTT R&D2003 FORUM) |
| [3] | 公開特許アブストラクト(JPCAニュースH13〜) |
| [4] | Prof. G. Stephanopoulos(NTT R&D2003 FORUM) |

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