JPCA NEWS 2004.9

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号




特性インピーダンスとコミュニケーション

 JPCAの調査レポートによれば、プリント配線板に要求される電気特性のダントツの第一位は「特性インピーダンス」になっています[1]。回答企業数82社のうち41社が1位にあげています。

 プリント配線板関係者はたいていこの用語や、重要な特性らしいとは知っています。しかし、特性インピーダンスは説明を聞いてもぴんとこない、からだで分からない、と思っている人が多いようです。

 プリント配線板の関係者も、エレキは苦手といいながら、抵抗(R)、コイル(L)、コンデンサ(CL)やオームの法則はよく理解しています。しかし、インピーダンスになると怪しい、さらに特性インピーダンスやEMIになると専門家を除いて分からない人のほうが多い。誘電損失をtanδ(タンデルタ)というが、なぜ三角関数が出てくるのか、わかりにくい。

 プリント配線板の電気的な特性や、その理屈などは専門家に任せておけばよいでしょうか。昔のプリント配線板はそれでよかった。しかし今はプリント配線板の製造に関わる人も電気的な特性についてもっと理解しなければならない時代になっていると、筆者は思います。実際、プリント配線板の設計では、線をつなげるだけの設計ではもうだめで、特性インピーダンスの考慮は当然、プリント配線板設計者には自分が設計したもののEMI評価まで求められるようになってきています。

 プリント配線板の製造は電気と化学の境界にありながら、住む人は電気の部落、化学の部落に分かれていて、お互いの交流があまりありませんでした。となり部落に移り住んだ人も少ない。ノーベル賞の田中さんは電気から化学の世界に移った人ですが、化学から電気の世界に行ったひとは少ないようです(明星大学の大塚先生くらいか)。これからのプリント配線板製造に携わる人たちには、電気のプロにならなくても、電気的な特性の意味について相手の話が理解できる程度の知識が必要と思います。そうしなければ、プリント配線板メーカはお仕着せでモノをつくるだけの下請けから抜け出せないでしょう。

 特性インピーダンスについては、プリント配線板のテキスト、便覧の記述もきわめて不親切、分からせる努力が見られません。

 ある本には、特性インピーダンスを伝送線路の最も重要な性能とし、その値Z0は次式で表されると、難しい式が出ています。


 高周波線路ではR、Gが無視できるので、右の式になり、インダクタンスと静電容量がわかれば特性インピーダンスが算出できるとしています。

 しかし、この式は難しい。jやωの説明はありません。jは虚数記号、ωは周波数の2π倍です。これだけの記述で特性インピーダンスを理解させようというのは無理です。

 その後に、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスの式が出てきます。マイクロストリップ線路とは、べたグラウンド層の上に信号パターンが走っている、プリント配線板では一番ポピュラーな配線です(図1)。


 この式は近似式ですが、中身は分かります。特性インピーダンスは層間厚さを大きくすると高くなる、導体幅を広げると低くなる、誘電率の低い基板材料を使うと高くなる、などプリント配線板の設計にかかわるパラメータの効きかたは読み取れます。しかし、@式とのつながりはないし、特性インピーダンスの働き方はこの式からは分かりません。

 ひとが「分かった」と実感できるのは、身体的な経験に照らして納得できたときです。経験にないことはなかなか実感できない。筆者は、特性インピーダンスをうまく説明するのに電気以外の現象はないかと、光の反射・透過、ツナミなどを考えてみました。同じことを考える人もいて、径が違うパイプのつなぎ目でおこる乱流で説明しているものがありました(図2。[2])。低流速ではきれいに流れるが、流速が大きくなると流れが乱れて反射が起こるというのです。しかし、もう一つピンとこない。

 特性インピーダンスの説明は超音波診断(あるいは超音波探傷)が一番わかりやすそうです。音の伝播には「音響インピーダンス」という概念があり、伝送線路の特性インピーダンスとそっくりなのですが、電気より音の方がなじみやすい。超音波診断では、音響インピーダンスが変化する場所で超音波が反射することを利用しています。物質中の音響インピーダンスは次式で決まります。


 鋳物のスや臓器の境目で、音響インピーダンスがZ1 からZ2に変化すると、超音波はある割合で反射します。その反射係数をmとすると、


となります。この式は伝送線路上での信号の反射の式と全く同じです。この反射量をイメージにしたのが超音波診断での画像です。

 送り手のインピーダンスが送り先のインピーダンスに合致したとき、反射係数はゼロ、すなわち送った超音波がそっくり受け手にわたるのです。このように双方のインピーダンスを合わせることを、インピーダンスマッチングといいます。このマッチングについて気の利いた説明を見つけました。

 「相性が大事、インピーダンスマッチング。
 例えば彼女に思いのたけを伝えたいとする。キミは適当な手応えが欲しいわけだ。手応えがあり過ぎて、はなからカチンとはね返されてもいけない。かといって、グズグズでさっぱり手応えが無いのも頼りない。「ヌカに釘」では張り合いが無いわけだ。
 このように、何かを伝達しようとすれば、お互いにある適当な「手応え」を感じあうようでなければダメだ。高周波エネルギーを送信機からケーブルを経てアンテナに無駄無くそっくり送り込もうとすれば、送信機とケーブル、ケーブルとアンテナの間のインピーダンスが良くあっていなければならない。これをインピーダンスのマッチング(整合)をとるという。[3]

 インピーダンスを「手応え」と訳したのは、うまい。C式は、
    音響インピーダンス=質量×音速

でした。水の音響インピーダンスは1.52、頭蓋骨は7.8、脳は1.60、空気は0.0004だそうです(単位は略)。水中に入射した超音波は、インピーダンスの高い頭蓋骨の表面ではほとんど反射し、インピーダンスの低い空気層にぶつかると、そこでもほぼ100%反射するのです。

 伝送線路の特性インピーダンスは@式で表されますが、A式と組み合わせると、
    特性インピーダンス=インダクタンス×伝播速度

  と、音響インピーダンスと同じ形に書き直すことができます。伝送線路の端を短絡しても、開放しても信号は相手に届かない、相手に伝わる丁度の大きさのインピーダンスがあるのです。

 では、特性インピーダンスの測定法、TDR法とはどういうものか。TDR法では、基準の特性インピーダンス(50Ω)を持つケーブルに被測定伝送線路(プリント配線板上の配線)をつなぎ、急峻なステップ信号を入力します。信号はケーブルに沿って走っていき、伝送線路に入りますが、伝送線路の特性インピーダンスが50Ωと違っていると、D式に示す値の反射信号がケーブルを逆送してきます。入力点付近で、電圧を監視していると、その変化から、D式を使って伝送線路の特性インピーダンスが求められるのです。

 このごろ新聞などに「コミュニケーション」が載るのはたいてい、コミュニケーション不在、断絶、相互理解不能、無関係などネガティブな場面です。しかし、インピーダンスマッチングの取れた、暖かいコミュニケーションの話題もあって、ほっとします。

 『音楽教室の発表会に招かれた時のこと。小学校4年生くらいの男の子が、演奏を終わって舞台中央に出てきたところへ、司会者の男性が進み寄り「ここに君のコメントが書いてあるけど、一番好きな言葉が、三枚におろすって、これどういう意味?」

 男の子はニコツと笑って「魚をさばくことです」。「すごいなあ。君、大きくなったら何になりたいの?」「魚屋です!」。余りのかわいらしさに客席はざわめく。司会者「どうして魚屋さんになりたいと思ったの?」。少年は胸を張って答えました。「だってぼくの父ちゃん、魚屋だもの」・・・誰からともなく大きな拍手がわき起こった。

 それは上手に弾けたピアノヘの拍手でもありましたが、日本一しあわせなお父さんへの拍手でもあったのです。[4]

[1] 「電子回路産業調査レポート」(JPCA、2004)
[2] 「プリント配線板営業士講習会テキスト」(JPCA)
[3] 「ちょっぴりアンテナのわかる本」(アンテン(株))
[4] 中田芳子「三枚におろす」(朝日04/8/20)


父ちゃんの仕事を誇りにおもう子ども。親のしあわせ

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号

社団法人日本プリント回路工業会
Japan Printed Circuit Assciation