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JPCA NEWS 2005.02

国際学力テストとガテン

 日本の子どもの学力低下が心配されています。以前から「分数のできない大学生」や落ちこぼれ対策が議論されてきましたが、最近では「ニート」の急増が問題になってきました(注1)。昨年12月に出た国際学力テスト(注2)のレポートで日本の順位が下がったというので、学力低下論争が過熱しています。3年前に1位だった数学の得点が、今回は2位グループの6位に落ちたというので、教育界は大きな衝撃を受けているといわれます。今回テストでの1位は香港で550点、2位はフィンランドと韓国(540点)で、日本は530点でした。ちなみに、フランス16位(510点)、ドイツ20位(500点)、アメリカ27位(480点)です。点数は偏差値で、全平均を500点、標準偏差を100点に変換した数字です。

 文部科学大臣が、「全国一斉の学力テスト導入して、競争を喚起し、学力世界一をめざす」と語り、授業時間数の確保、学習指導要領の内容復活、基礎・基本の反復徹底学習の奨励といった動きが急になってきました。「ゆとり教育」から一転して「つめこみ教育」の復活です。以前このコラムで、小学校の教科書にあった円錐の体積の公式が消え、中学にもなく。高校教科書にはじめて出てくるが、そこでは積分を使っている、と紹介しました。「ゆとり教育」では落ちこぼれをなくす目的で、小、中学の学習内容を限りなく軽くしたため、しわ寄せが高校に行ったのでしょう。結果的に高校での落ちこぼれが増える、大学入学後、小学、中学レベルの補習が必要になる、という結果になっています。さて、方針を180度転換して、つめこみ教育で子どもたちを競争に追い立てれば、国際テストで1位に復帰できるでしょうか。またそれが日本の国際競争力の復活、ものづくり力強化につながるでしょうか。何より次世代を担う子どもたちにとって幸せなのか。

 国際学力テストのうち高校1年生を対象にしたPISA(注2)報告(数学)を拾い読みしてみました。そもそも標準偏差100点の分布で10点、20点の違いにどれだけの意味があるのかどうか。図は、PISAのデータから筆者が作成した、日本、香港、韓国、米、独、仏の偏差値のグラフです[1]。確かに国ごとに平均値に差がありますが、この程度の差や順位がそれほど問題になるのか。しかし日本だけでなく、アメリカ、ドイツでも、国力の根幹にかかわると、改善に躍起になっているようです。筆者はそれよりも分布の広がりが大きいこと、また、その幅が国によってほとんど差のないことにおどろきました。どの国でも、できる子とできない子の成績は同じくらい開いているのです。その幅は国間の平均値の差に比べてはるかに大きい。日本でできない子は、外国に行ってもできないのです。

 経済力、教育制度、社会環境が大きく異なるはずのこれらの国でこれだけ分布が似通っているのはおどろきです。テスト参加国(40ヶ国)の中には平均値がもっと低い国(インドネシア、ブラジル)もありますが、分布の形は図とほとんど変わらない。分布の幅が広いのは、生物としての人類本来のもの、制度、環境を改善しても容易に縮小できないのではないか、とも思うのです。どの国でも学力の国内格差がまず問題で、@できる子の能力をどう伸ばし、Aできない子に必要な最低限の能力をどう身につけさせるかが課題です。しかし一つの教育制度の中でこの両方を実現するのはむずかしい。ゆとり教育のねらいはAにあったのでしょう。

 今回の調査で浮き彫りにされたのは、日本の子どもたちの学習意欲の低さです。PISAレポートにはテスト時に行ったアンケートの結果について分析しています。そのいくつかを以下に抄訳しました。


・ どの国でも、生徒の数学に対する興味は、もともと低い。
・ 学校に行くことはプラスと考えているが、数学に対する意識ばらつき、数学に関心のある生徒は半数、好きな子は38%。
・ 全体的には75%の生徒が、数学は将来自分に役立つと思っている。しかし日本、ルクセンブルグは50%にとどまる。
・ 全体的には78%の生徒が、数学の勉強は他の学科を学ぶ上で重要と考えている。しかし日本と韓国は50%以下。
・ OECD諸国では平均81%の生徒は学校に帰属意識をもち、89%は友達が容易に作れる場所としている。国別には、オーストリア、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、スペイン、スイスなどで高く、ベルギー、チェコ、フランス、日本、韓国などで低い。学校が面倒な場所、場違いな場所と考える子が、スウェーデンでは5%、ベルギー、日本ではその3倍もいる。
・ 数学の問題が難しいとする生徒は、日本、韓国で84%以上、カナダ、メキシコ、スウェーデン、アメリカでは57%。
・ 数学に不安を覚える生徒は、フランス、イタリヤ、日本、韓国に多く、デンマーク、フィンランド、オランダ、スウェーデンで少ない。数学の宿題が非常にきついとする生徒はフランス、日本では50%以上、フィンランドやオランダでは7%にとどまる。(フィンランドやオランダは国際テストの成績がトップグループ)。
・ 数学の力について抱く自己イメージ
  最強:アメリカ
  最弱:日本、韓国、香港
・ 数学の応用力に対する自信
  最強:カナダ、ハンガリー、スイス、アメリカ、他
  最弱:ギリシャ、日本、韓国、他

 以上、拾い読みしてきて思うのは、日本の子どもは、国際テストでトップグループの成績を取りながら、総じて自信がない、学習意欲が低い、元気がないということです。それに比べて北欧やアメリカの子どもは自信が強く、楽観的です。日本の子どもに元気がないのは親の世代に元気がなく自信を失っているからでしょう。数学の能力にかなりの個人差があるのは現実。努力すれば、塾に行けば、みな同じように数学の成績が上がるわけではありません。しかし、学校の優等生だけが人生の勝者ではない、いろいろなコースがあるんだ、俺は別の方向で身を立てる、数学をパソコンと同様、ツールとして(できれば面白がって)勉強すればもっと気楽にやれるのではないでしょうか。成績は悪かったが、数学は好きという面白い友人が何人もいます。商売、スポーツや芸術、芸能の世界で成功した人にはむしろ自慢げに、子供の頃は数学が苦手だったと広言する人がいます(アインシュタインですら)。

 若者がフリーター、ニートになる理由を本人の意欲、無気力で片付ける風潮に東大の玄田先生はかねてから異議を唱え、注文をつけています。[2]

 「失われた十年というが、日本人が失ったのは富よりも自信でしょう。学生を見ているとよく分かる。いまの大学生はまじめによく勉強する。資格を取ったり英語をやったり。就職が厳しいから即戦力になろうと一生懸命だ。それでも面接に落ちるから自信をなくしてニートになったりする。

 会社も即戦力が欲しいなどと言わないほうがいい。強い会社は言わない・・・育てる自信があるのだ。ある会社では、派遣社員が契約期限で辞めるとき、必ず盛大な送別会を開くという。去っていく人に温かくない会社では、自分が辞めるときもこんなものか、と今いる社員もやる気を失っていく。どうせ辞めるから育てない、という姿勢は良くない・・・」

 一方で、ガテン系、職人の道を目指す大卒者が増えているそうです。有名企業が倒産する時代、若者たちは、安定よりも自分の存在意義を確認できるモノ作りに価値を見いだし始めています。「サラリーマンは嫌、とりあえず職人に」と考える学生が少なくなく、フリーターやニートに近い、との見方もあるようですが、筆者は職人も悪くない。ただし、プロの職人になって欲しいと思うのです。大学全入時代が近いというのに、大卒者全員が背広にネクタイ姿でオフィスに勤務する社会などありえないからです。ある職人塾の人は「塾生は伝統文化の担い手になるというしっかりした目標をもっている」、また、ある棟梁は「職人の世界に対する意識が甘いところもあるが、大工を目指す若者が増えるのはうれしい」と話しています[3]

 これからの日本のプリント板のモノづくりも、理論、論文の紙の上だけでなく、幅広い知識を身に付けた「誇り高い」職人によって支えられると筆者は信じています。

 注1 ニート(NEET)
 「職に就かず、学校に所属せず、就労に向けた具体的な動きもしていない」若者。68万人いるといわれる。
 注2 国際学力テスト
  PISA: Programme for International Student Assessment
  高校1年生 (15歳児)を対象にした国際的な学習到達度テスト(3年ごと)
  TIMSS:Trends in International Mathematics and Science Study
  小学4年、中学2年生(4年、8年生)を対象にした教育到達度テスト(4年ごと)


[1] PISA:http://www.pisa.oecd.org
[2] 「若者の雇用問題 企業はどうすべき?」(朝日05/1/12)
[3] 「増える大卒ガテン系」(朝日05/1/7)
車窓から眺める「お岩木山」。見る方向によって姿を変える。
人も山も見る方向によって姿が変わる。おれ、おらが山

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