|
電車の両輪間寸法はクルマの3分の2しかないのに、車体幅は1.5倍、車高は2倍もあるのです。こんな電車が時速120キロ、130キロで3分おきに走れるのはすごいことです。それを可能にしているのは、道路とは桁違いによく整備されている線路と信頼度の高い信号、制御システムなのだと筆者は思います。車体を見れば、電車はクルマよりずっと不安定なもの。鉄道の高速と信頼性は、線路と制御システムのおかげでやっと支えられているのだ、と考えておく必要がありそうです。JR西日本には、鉄道の信頼性はあたりまえ、私鉄との競争や収益が第一という意識が強かった。しかしメーカーでも、とかく、品質はあたりまえ、他社との競争、コストが優先という考え方になっているのではないでしょうか。どちらも危ない。
事故を起こした電車の高見運転士(23)は、前日は23:00まで勤務、その後仮眠、事故当日朝6:00に点呼を受けて快速電車を運転していたとのこと。睡眠時間はせいぜい5時間くらいでしょうか。運転士は遅れを取り戻そうと直線区間を最高速度で走行、現場カーブぎりぎりまで減速操作を遅らせたとみられています。総合指令所からは「遅れを取り戻すよう努力してください」と繰り返し無線が入る。運転士は、もう少し、もう少しとアクセルを踏み続けたのでしょう。電車の所要時間は、通常、車両性能、制限速度から運行時間を設定し、駅での停車時間や乗降トラブルなどを想定した「余裕時分」をプラスします。ところがこの快速電車は運行時間の「余裕時分」がゼロ(他の余裕ゼロ電車よりさらに5秒短い「最速電車」)だった。運転士は秒単位の遅延がチェックされ、重なると懲罰的な「日勤教育」が待っている。牧歌的な運転士のイメージは幼児の絵本の中だけのようです。
2002年、京都駅での異常接近事故で、航空・鉄道事故調査委員会は、「余裕時間がないことが事故の要因」と指摘、「定時運転確保に対する強い意識が、異常時にあせりを招き、基本動作の確実な実施を阻害した可能性があった」、重大事故につながる兆候として警告する報告書を発表しました。JR側は、「余裕のない時間設定に問題があった」と回答、是正を約束していた。しかし、その後に行われたのはさらなる過密ダイヤの編成。宝塚―尼崎間では、停車駅を増やして所要時間が延びたのに「余裕時間」ゼロの運行が強行されたといわれます。
事故を起こして死亡した運転士は、「遅れを取り戻すことができる力量を持った運転士ほど社内で高く認められる・・・電車の出発が遅れたり、乗り降りが長引いたりしたときは、時間を詰められるところで詰めなければならない。具体的には(1)直線区間でスピードを上げる時間を延ばす(2)カーブ手前の減速ポイントでブレーキをかける位置を遅らせる。これらの方法は「社内の運転マニュアルではなく、見習い時代に先輩から教わったり、職場で同僚からコツを聞いたりして覚えた」と語っていたそうです。「余裕時間」ゼロは運転士にきわどい運転を強いていたようです。
安川電機の中山会長は語っています[2]。「列車はレールの上にフランジ(縁)の付いた車輪が乗って走るだけの簡単な構造です。・・・人間は間違える。特に慌てたときには想定外の動作をすることがある。通勤電車で120キロや130キロの運転をする以上、技術的に可能な安全対策は欠かせません。・・・定時運行は大事ですが、秒単位の遅れやセンチメートル単位の停車位置のズレに神経質になり、運転士の技量に過剰な負担を掛けるのは、社員にまるで戦時中の竹やり精神を求めているようなもの。外国のお客さんを新幹線に案内して時刻や停車位置の話をすると、みんなびっくりします。しかし、そんなち密さをまねる国はありません。驚かれはしても、尊敬されてはいないのだと思います」
以上脱線事故について背景や課題を見てきたのは、これはJR西日本だけの問題ではなく日本のどの鉄道会社、どの企業でも起こり得る事故だと思うからです。合理化、リストラをあまりに急ぐ企業、辣腕経営者には多かれ少なかれ共通する危険なのではないでしょうか。無駄を省け、これまでの設備保全の周期に根拠はあるのか、延ばせるのではないか、「余裕時間」はなくてもマニュアルどおりに運転すれば定時運行は可能のはず、等々、上から圧力がかかる。脱線事故の後もあちこちでオーバーランが相次ぎました。事故を起こした運転士はたいてい「うっかりしていた」「考え事をしていた」と言っています。うっかりするのが人間、それでも安全が損なわれないよう、適切な余裕とフェイルセーフの装置を考えて欲しいと思います。私たちもドアが閉まっても動きださない電車にいらいらするのはやめたいものです。
最後にプリント板のデザインルールについて。めっきスルーホールの穴の周りにはアニュラリングが設けられています。この一見無駄な領域は何のために付いているのか。それは材料の寸法変化、パターン形成・穴あけの位置ずれ、その他製造上のもろもろの誤差を吸収するための「余裕」なのです。年々、ライン・スペース、穴径の縮小が急速に進んでいますが、その割にアニュラリングは小さくなっていません。材料やツールの寸法変化を抑え、セットずれを小さくする技術の進歩がライン・スペースの縮小ペースについていっていないからです。何でも適度なガタ、余裕があってはじめて円滑にまわる。
|