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JPCA NEWS 2006.3

薬の効き方

 ウォーキング仲間のひとりがしばらく顔を見せませんでした。体調不良と聞いていましたが、先日久しぶりに会ったら笑顔で、もう良くなったという。その理由がおかしい。薬を飲んで治ったのではなく、やめて治ったというのです。友人は以前から痔疾に悩まされ、漢方医にかかっていました。血圧が上がってきたので医者に相談すると、別の薬をくれた。他の不具合が出たというとまた薬が出る。こうして薬が4種類にもなった。しかし体調はよくならない。知人に話すと、漢方薬を同時に4種類も飲むのはよくないという。そこで薬を全部やめたら体調が戻ったというのです。友人のいわく「漢方医は薬をやめることをしない。アディティブだけで、サブトラクティブがない」と。

 医療に限らず、対症療法を継ぎ足していくとこんなことになるのでしょう。どんな薬にも効能・効果があると同時に、多かれ少なかれ副作用があるはず。しかし、製薬会社の副作用、注意事項の説明は効能に比べて扱いがずっと小さい。薬の効能はでかでかと箱の表に出ているが、注意事項は細かい字で、次の症状が出たら医者に相談せよ、と申し訳ばかりに書いてある。飲むほうも副作用まで考えて薬を選ぶ人は少ない。

 薬は病気の治療に、多少の副作用を承知で飲むもので、健康のために飲むものではないようです。その意味で、筆者は昨今のサプリメントブームには危ういものを感じます。電車には、健康に良い、元気をつけるという薬や食品の広告がいっぱい出ています。深夜に帰宅し、朝、駅の売店で栄養ドリンクを立ち飲みして出勤するサラリーマンを見ると痛々しい。その一方、どこも悪くはないのに、健康にいいと聞けば何でもやるというマニアがいます。多くの人はサプリや健康法を渡り歩き、ひとつに執着しないので実害は少ないのかもしれません。しかし、使用が多量、長期になったり、併用したりする人はマイナス効果が蓄積しないかと気になります。ある薬の説明書に、健康な人は服用しないでください、とありました。このほうが納得できます。

 漢方薬のホームページを覗いてみました。どの漢方薬にも効果と副作用の項目がほぼ同じ数載っています。面白いのは、漢方薬による副作用とその経過についてのアンケート結果です[1]
 ・副作用     胃腸障害(50.8%)、発疹(19.6%)、浮腫(6%)
 ・副作用の経過 中止で好転(63.4%)、減量で好転(17%)、飲み続けて好転(12.2%)

薬をやめて好転、減らして好転あわせて80パーセントにもなるのです。

 ところで、大型新薬の開発は想像以上に大変な作業のようです。電子材料、例えばガラスエポキシ積層板は、ベースのエポキシ樹脂は基本的には変えず、さまざまな添加剤を加えて特性の改善を図ります。それに対し、新薬の開発は生体内の標的たんぱく質に結びつく「単一コンポーネント(1個の分子に複数の機能を持たせたもの)」を創り出すのです[2]。まさにピンポイントのミサイル、世の中にない物質(化合物)を作りだす神への挑戦ともみえる作業です。従って、薬効の検証もさることながら、その副作用を確かめるほうがたいへんです。開発の流れは、標的を定めて、候補化合物を10000ほど選び、その数を絞って、前臨床試験、臨床試験かけて、うまくいけば新薬誕生となります。最後まで残るのはたった1つの化合物。開発費用は10億円、期間10数年、うち臨床試験だけで10年ほどかかるといいます [2]

 このように時間と費用をかけて開発した新薬も特許期間は25年。それを過ぎると同一成分を使った後発医薬品が登場し、またたく間に後発薬に置き換わり、新薬の売り上げが激減するといわれます。

 薬の適量を決めるのも大変。華岡青洲は開発した麻酔薬を、動物実験してから母や妻で試したのですが、妻を失明させてしまいました。薬の量は、大人2錠、小人1錠など体重あたりで指定されます。しかしこの基準で動物実験の結果を人間にあてはめるのは危険なのだそうです。薬は血液、臓器に入った後、肝臓で分解、あるいは腎臓から排出されますが、小さい動物ほど分解や排出の速度が速く、すぐ排出されるので薬の効きが浅いのです。ある睡眠薬は、人では6時間効くのに、ウサギでは1時間、マウスではたったの20分くらいしか効かないそうです[3]

 なぜこんな違いが出るのか。この本によると、肝臓の分解速度(時間あたりに薬を除去できる能力)と寿命には次の関係があるという。

 分解速度×寿命=一定(体重あたり、生涯に分解できる容量は、どの動物も同じ)

この関係が体重20グラムのマウスから、70キロのヒト、300キロのウシまで、大きさに1万倍もの開きのある多くの動物種についてきれいに成り立つのが面白い。大きい動物ほど寿命が長く、その分、分解速度はゆっくりしている。また、ヤギの体重はヒトと同程度ですが、ヒトの寿命はヤギの4倍、薬の分解速度はヤギの1/4なのです。著者の澤田先生は、寿命の長いヒトはエネルギーをけちって(節約して)生きているのだと言います。

 「ゾウの時間 ネズミの時間」[4]には、これ以外に動物全体に共通するいろいろな生理的能力の「総量」が挙げられています。著者の本川先生は講義中に自作の歌を歌うそうです。そのひとつ「一生のうた」の抜粋。
「ゾウさんもネコもネズミも心臓はドッキンドッキンドッキンと20億回打って止まる・・・息を3億回吸って終わる・・・一生に1キログラムの体重あたり15億ジュール消費する」

 心臓の鼓動、呼吸数、消費エネルギーにも生涯に与えられた総量がある。薬の分解能力にも総量がある。これらの総量が動物の種類によらず一定というのは怖いぐらいです。小さい動物は早い鼓動で短い一生を生きるのです。

 ただし、動物がすべて天寿(最大寿命)を全うできるわけではありません。野生の動物は老化するとエサが取れなくなったり、他の動物の餌食になったり、その他、病気などで「生理的寿命」のほぼ半分の「生態的寿命」で一生を終えるそうです[5]

 動物の寿命について元上野動物園園長、中川志郎さんの言葉には考えさせられます。「注目したいのは、動物社会のなかで老化していく個体について、野生の動物社会の仕組みでは何の救済措置もとられていないということです。動物社会が群れのなかの子どもについて圧倒的な保護システムをもっていることに比べますと、老化していく個体については驚くほど配慮されていません。おそらく、長い長い進化のなかで生物が獲得したシステムのこれは重要な部分なのでしょう。動物社会で親が新しい生命を生み育て上げる役割を果たして一生を終わり、まだ生理的には生存する余力を残しつつ世代を交代するというこのシステムこそ、動物社会につねに新鮮なエネルギーを維持させる要素となっているのです。[5]

 以上、薬の副作用から、ヒトを含めた動物に与えられた寿命や能力の総量について見てきました。動物はみなさまざまな「総量」の枠の中で生かされているのです。「幸せの総量は変わらない」という言葉もあります。一方、お金と情報量には際限がありません。数年前、100メガバイトのハードディスクは大きかったが、いまや100ギガ、次はテラバイトの時代とか。しかし情報を貯めることはできても読むことはできない。デイトレーダーは、日に何百万円もの株の売買をする。筆者には現なまの生理感覚が伴っているとは思えません。

 ガラスエポキシ積層板では過去にさまざまな改質が行われました。その多くは改質剤を次々に添加するアディティブでした。そしてしばしば後々に副作用が出ました。いま電子産業はRoHS対策に追われています。鉛フリー、その目的やよし。しかし「意図しない」痕跡程度の鉛の混入をどこまで規制するのか。代替品の副作用についてどこまで確認されているのか、いささかの危惧を抱いています。


[1] ちかかね皮膚科 http://www.e-skin.net/2ky/kannpo2.htm
[2] 青木初夫「医薬品の研究開発におけるイノベーション創出について」2005/1/25 corporatec@po.fujisawa.co.jp
[3] 澤田康文「この薬はウサギかカメか」(中公新書)
[4] 本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」(中公新書)
[5] 中川志郎「動物たちの寿命」(同時代通信8号)

「サプリより野菜で治そう−ダイコン/咳止め、ジャガイモ/胃潰瘍、カボチャ/丹毒、ゴボウ/腫れ物、カキ/中風・・・」

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