
JPCA NEWS 2006.8
トレーリングエッジ
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シンドラー社エレベータ、パロマ湯沸かし器など人命にかかわる事故のニュースが相次ぎました。筆者はそのたびに、プリント板が事故の原因でないかとひやりとします。今年6月のノートパソコン爆発事故もショックでした。マスコミにはほとんど出なかったがメールが飛び交いました。大阪での国際会議の席上、デルのラップトップパソコンが爆発し、燃え上がったというのです。パソコンは5分以上にわたって燃えながら、数回爆発したというのです。事故を目撃した人のコメント。「ラップトップをひざの上に置いて使うのはやめたほうがよさそうだ[1]」。 |
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パソコン発火の原因はパソコンのリチウムバッテリーとみられています。実際、CPSC(消費者製品安全委員会)のリコール情報[2]によると、最近、バッテリーのリコールが相次いでいます。その2,3を挙げます(1ドル115円で換算)。 |
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これを見て気づくのは、原因はバッテリーでもリコール対象はHPやDellのパソコンだということ。バッテリーの価格はパソコン価格の10%に過ぎないこと。バッテリーの内部ショートのような部品の欠陥についてもセットメーカーが責任を問われるとは、セットメーカーもたいへんです。 ある友人は、問題のバッテリーはCEマークやULマークを取得していて安全性が確認されているはずなのに、といいます。筆者は「CE、ULマークで確認されているのは「設計」であって、問題は原材料、製造段階の「ばらつき」でしょう」と返事しました。ものの品質は「設計品質(ねらいの品質)」と「製造品質(できばえの品質)」の2つに分けられます。CE、ULマークは決められた材料、決められた装置、製法できちんとつくれば期待した品質が確保できるという意味での認証だと思います。しかし、材料はばらつくし、装置、製法も常に一定とはいえない。作業環境も変わる。その昔、ある大手電機メーカーの実装工程では、雨が降り出すと仕掛かり中のプリント板を急いで「茶箱」に入れると言っていました。雨で湿度が上がるとプリント板のはんだ上がりが悪くなるからとのこと。いちばん大きい要因は作業者のスキルと意識(モラール)。これが低ければどんなに立派な設計も絵に描いた餅です。「ばらつき」という言葉には「中心点のまわりにランダムに振れる」というイメージがある。シグマやCp(工程能力指数)などの統計的な扱いはそれを前提にしています。問題は「中心」がしばしば突然にずれてしまうことです。こうなると平均、標準偏差などの統計的な処理は無力です(管理図で「中心」のずれを発見できる可能性はありますが)。現場の作業者、管理者は日常作業の中で、中心位置がずれないように目配りをし、ずれが発生したときはいち早くそれを発見し、復旧させるか、ずれに適切に対処して最終品質が変わらないようにする。これが「ものづくり」の基本です。 最近、ケータイやパソコンの電池寿命が伸びたのはありがたい。しかし一抹の不安もあります。省電力で電池が長持ちするのならわかるが、電池の基本原理は変わらないまま蓄電能力が大幅に高まっているのです。どこかにリスクがひそんでいないか。 「(リチウムイオン電池の)最大の問題点は常用領域と危険領域の差が非常に接近しており、安全性確保のため保護機構の追加を施さなければならない点にある。電池は必ず安全機構を内蔵した電池パックとして供給され、単電池は市販されていない。これは、単電池の状態で過充電すると充電後に爆発する危険性があるためである。[3]」といわれます。また、「セルの製造工程でなんらかの異常があると事故を起こします。当然、様々な検査工程で不安定なセルは除去されていきますが、それをもれるものもありえます。実際、生産数量が大きいと、非常に確率の小さいことでも出現します。・・・生産数量が大きく、かつ不良品が重大な事故をもたらす危険性がある場合には3σ管理では不十分。国内の多くのメーカーでは6σ管理を行っているはずですが、問題は海賊パックを作るような国の製品。おそらくほとんど何の管理もされていないかのような印象を受けます。・・・ユーザとしてはメーカーの選定が重要です。どこのメーカーであれ事故が起こらないということはないが、信頼性の高いメーカーでは事故発生の頻度は非常に低いが、海賊版製品を製造するようなメーカーの製品は事故の確率が非常に高くなるのです。[4]」 電池が怖いのは、小さい容器の中に大量のエネルギーが蓄えられていることです。短絡などでそのエネルギーが一気に放出されると容易に1000℃以上に上がるという試算もあります[4]。 リチウムイオン電池の優れた特性を活かし、高い信頼性を確保するには、保護、安全機構の設計技術と、ばらつきを抑え、不良品の流出を防止するきびしい品質管理の両方が欠かせない。悍馬(かんば、気性が荒くて制御しにくい馬)を乗りこなす技が要るのです。 リーディングエッジ(先端)という言葉がよく聞かれます。先端と名の付く研究所やプロジェクトがあちこちにあります。先端とつければなんとなくかっこよく、若者もあこがれます。リーディングエッジと対になる言葉がトレーリングエッジです。飛行機では翼の前縁と後縁が、パルス信号ではパルスの立ち上がり部と立ち下がり部がリーディングエッジ、トレーリングエッジと呼ばれます(図)。トレーリングエッジのトレール(Trail)は「引きずる、跡を追う」という意味です。飛行機の翼でもパルス信号でも「後端」が「先端」と同程度に性能を左右する重要な場所なのにトレーリングエッジはリーディングエッジほど注目されません。 植物は太陽に向かって枝を伸ばし、動物は前に向かって進むように作られています。魚は後ろ向きに泳げないし、鳥が後方に飛ぶときは体を反転させるしかない。動物は後ずさりしたり、後ろを振り返ったりするのは不得意です。人の行動もすべて「前向き」「プラス思考」「攻め」がよいとされます。 しかし、製品開発で新しい機能を実現するのはリーディングエッジでも、それで製品の信頼性が高まるのではない。リチウムイオン電池の場合、新しい電池構造や安全機構を考えるのは「先端」の仕事でしょうが、さまざまなばらつきを抑えるのは「ものづくり」を担う現場であり、トレーリングエッジの役割といえるでしょう。リーディングエッジを頭とすると、トレーリングエッジは足腰です。トレーリングエッジはどちらかというと泥くさく、目立たない仕事ですが、モノの信頼を支えているのは持久力のあるその足腰だと思うのです。 デルやHPのリチウムイオン電池リコールでの対応は、同じメーカーの同じタイプの製品に交換するしかないでしょう。交換すれば懸念はなくなったといえるのか。プリント板も単価は低くても、システムの信頼性を左右するキー部品です。トレーリングエッジには十分な目配りが必要でしょう。 |
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飛行機の翼 パルス信号
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| [1] | http://www.theinquirer.net/default.aspx?article=32550 |
| [2] | http://www.cpsc.gov/ |
| [3] | http://ja.wikipedia.org/wiki/ |
| [4] | http://www.baysun.net/lithium/lithium18.html |
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「カマイルカのジャンプ 推進力は尾びれから」
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