
JPCA NEWS 2007.1
ものづくりの「和」と「創」
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昨年のアジア大会。テレビでは、連日「金ラッシュ」と日本選手の活躍が報じられました。それで、メダル獲得数でも圧倒的に日本がリードしているのかと思っていたら、結果は、中国が金165個でダントツトップ。日本の金は、韓国の58個に次ぐ50個で3位に終わりました。 最近の日本選手は試合前のインタビューで「楽しみたい」という。しかし、そんな気分で試合に臨んでいるはずがない。プレッシャーからくる過度の緊張をほぐし、自己暗示をかけるのでしょう。また、試合に勝てば「応援のおかげです」といいますが、応援で足を引っ張ることはあっても、応援が盛大なほど結果が出せるものでもないと思います。選手はみな日の丸を背に必死の思いで試合出ている。期待した結果が出なかったと選手、コーチを責める気にはなれません。 日本では、強烈個性のリーダーによるスパルタ練習が姿を消し、練習は科学的に、選手にはプレッシャーをかけないよう気を遣っています。しかし、中国、韓国の選手は試合の結果だけでなく、その行動についてもきびしいチェックにさらされています。 「アジア大会のU-19サッカーをテレビで観ていると、日本チームは誰がフリーキックを蹴るか、数人で輪になり、じゃんけんで決めていた。学校のサッカーでよく見られるこの方法に、リラックスして楽しかった昔の日々を思い起こした。以前、中国のU16チームが負けた時は、沈み込んだ表情の選手がテレビに映り、泣きながら続けざまに3回謝っていた。『指導者、すみません!』『コーチ、すみません!』『観客のみなさん、すみません!』――。わたしからすれば、いちばん申し訳ないのは選手自身に対してであり、楽しくサッカーができなくて、何の気力が出るのだろうと思う。少年は楽しく成長し、悩みも少なくあるべきなのに、試合のために思想上の悩みを背負ってしまっている。試合のたびに、それもただの省市級の青少年試合の時でさえ、関係部門は『ベスト8をキープし、ベスト6を目指せ』『ベスト4を確保しろ』『金メダル3個は必ず』などと、工場の生産や商店の売上のように、絶対的なノルマを設定する。スポーツの試合では、勝つこともあれば負けることもある。『ベスト何々』の確保など、誰にもできない。・・・ノルマが先行し、指導者が監督にプレッシャーをかけ、監督がコーチにプレッシャーをかけ、コーチが選手にプレッシャーをかけ・・・いちばん下の選手には重いプレッシャーと不安がのしかかる。」[1] 今回のドーハ大会で中国、韓国はめざましい成績を上げましたが、それに満足していません。「中国の関心は、五輪でいくつの金メダルが取れるかに集中している。水泳や陸上などの記録種目で世界水準とまだまだ広い格差を見せて、ややがっかりのムード」、「韓国は目標どおり2位を占めたが、当初70個余りの金メダルを予想したことに比べてはやや振るわなかった。・・・韓国のスポーツの国際競争力はこれから改善する見通しを見せていない。」[2] 日本人選手がバネの体つきのアフリカ勢に陸上で、巨漢の欧米勢にレスリングで苦戦するのはやむをえませんが、体格の似た中国、韓国勢にこれだけ引き離されるのはどうしてか。 どうやら日中韓の成績の差は、国全体の競争意識、「勝った、負けた」への思いの程度によるようです。選手育成に対する国の助成は日本もひけを取らないはずですが、国民全体の国際試合に対する関心の高さ、応援の熱さ、結果への執着は中韓に比べるとかなり低いように思われます。国の威信がどうしたなどとは考えない。多分、人気・関心が分散して全体にクールになっているのでしょう。 競技のレベルはその競技に素質ある人材がどれだけ集まるかによって決まります。そして人材は人気のある競技に集中するのです。レベルを上げるには選手の支援・応援もさることながら、競技の人気を高めることがより重要です。 スポーツのトップレベルは肉体の限界に挑戦するもので、記録には当然上限があるはず。にもかかわらず、世界記録が毎年少しずつながら塗り替えられるというのはすごいことです。80数年の歴史をもつ箱根駅伝でも今年区間新記録が2つも出ました。歴代優勝校の往復路所要時間を図に示しました。これだけ過酷な競技で、着実に記録が伸びるのはおどろきです。終戦前後の混乱期だけ記録の伸びが停滞しているのは示唆的です。この時期はスポーツどころではなかったのでしょう。 |
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図 箱根駅伝優勝校の記録 昨年のJPCA研究会での堀場製作所会長の話はおもしろい[3]。 「幼稚園の子ども100人と、大学生1人の闘いということを綱引きさせる。すると、必ず幼稚園100人のほうが勝ちますよね。いくら大学生がどんな相撲部であろうが、レスリング部であろうが。これは20世紀の闘いなのです。 この次どうするか。ここに例えば簡単な微分方程式を出す。これを大学生に解かせる。片一方は幼稚園100人に解かせる。どうします? 幼稚園100人いるから、その微分方程式はみんなでちょっとずつ分けて部分計算しようとしてもできません。幼稚園1000人呼んできてもできません。大学生1人は一番簡単な微分方程式だから簡単に2分ぐらいで解ける。これが21世紀の闘いなのです。」 並みの選手を鍛えるのではダメ、まず素質のある選手を発掘すること。これはスポーツの常識ですが、小学校では禁句です。100人の幼稚園児がいずれ国全体の基礎、国の安定を支えることになるからです。堀場さんは、21世紀には大勢の並みの人だけでなく、国際競争に競り勝って日本を引っ張っていく並外れたリーダー、エリートが必要だと言っているのです。戦後の日本では「エリート」も禁句でしたが、21世紀は、みんな仲良く、力を合わせて、だけではやっていけないのでしょう。 21世紀の日本を託するリーダー、エリートどうやって育てるのか。中国、韓国は猛烈なエリート教育です。韓国では子どもの海外留学に母親もついていく家庭が多いらしい。親父ひとり韓国に残り、生活を切り詰めて学資を送るといわれます。韓国の英才教育はすごい。小学生で大学の講義を受ける子もいる。日本にも教育ママは健在ですが、昔ほどではない。「素直に、おおらかに育ってくれればよい」という家庭も多い。子どもに将来の志望を訊くと、「わからない」という子が多く、挙げても身近な職業をあげる。中国は違うようです。以下は養老先生と法政大、王先生の対談の一節。[4]
「養老: 中国の人は、自分の体を動かすことを、必ずしもいいこととは思っていないように見える。 以前、飛行機で日中のプリント板関係の人と隣り合わせになりました。中国の人が「あなたの座右の銘は?」と問いかけます。日本人が「和」と書く。すると、相手は「わたしは『創』」と返しました。 安定した品質は「和」(あるいはチームワーク)によって作られます。しかし「創」がなくては先に進めない。その「創」は教育・訓練だけで育つものではない。「創」を担える人材(おおむね変わり者)を発掘し、あたたかく見守り、あそばせる(泳がせる)ことのできる環境・雰囲気をつくることが大事です。 プリント板の国際競争でも、まずこの分野の人気が高まり、人材が集まる工夫をしなければならないと思います。そのためにわたしたちに何ができるでしょうか。 |
| [1] | 「日本の若者に学ぶ リラックスしたサッカーを」(人民網日本語版 06/11/30) |
| [2] | 「アジア大会終えた韓日中、3国の表情は?」(東亜日報 06/12/16) |
| [3] | 堀場雅夫「21世紀のものづくり おもしろおかしく」(JPCA NEWS 06/10) |
| [4] | 養老孟司×王敏「無思想の思想×原理原則社会 日中間の『バカの壁』」(中央公論06/6) |
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