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JPCA NEWS 2007.2

入学試験とクリーンルーム

 猫の額のわが家の庭も春になると雑草が一斉に芽を出しはじめます。そろそろ草取りをとぐずぐずしているうちに、あっと言う間に草の背丈が伸びてくる。重い腰を上げて草取りにかかるが、あまりの雑草にうんざり。そこで、今ではざっと見渡して背の高い目立つ草だけを抜くことにしています。作業は楽ですぐ終わる。やる気が残っていれば、もう一度全体を見渡して目立つ草から抜いていきます。この方法だとやった時間なりに庭がきれいになり、背の低い草がたくさん残っていても「我が家の自然」などとうそぶいています。たまに小学生にアルバイトで草引きをさせると、ていねいに草を抜きはじめますが、すぐいやになって放り出します。庭の端っこがちょっときれいになって大部分は草ぼうぼうのまま。

 入試センター試験が終わりました。試験問題が新聞に出ていましたが、どれもなかなか難しい。時間をかければともかく、これ全部を2日でやるのはまず無理。ある大学の先生に、受験生はできるのですかと聞くと、パターンで覚えているのですよ、との答え。まるで将棋のコンピュータプログラムと同じです。将棋のプログラムでは、序盤、中盤は膨大な過去の実戦パターンを参照して、局面に応じて指す手を選択し、終盤はコンピュータ得意の腕力で読み切るのです。近年、急速に力をつけ、プロをもおびやかす存在になっています。チェスはすでにコンピュータがプロの世界チャンピオンに勝つこともあります。

 こんな難しい試験に受かって入学してきたはずの学生の学力はどうか。ある先生は、平方根がわからない学生がいると、また別の先生は、マイナスがわからないのがいるといわれる。

 昨年、琉球大学での学生の追跡調査が論議を呼びました。入試センター試験の結果と入学後の学業成績には相関がないというのです[1]。同じような結果が拓殖大学などからも報告されています。どの大学も、大卒の学力が身につけられる学生を入学させようと、○×式試験以外に推薦、AO、小論文、面接などを組み合わせていろいろ苦心しています。卒業時成績に一番相関が高いのは大学1年目の成績という報告もあります。基礎が身についていなければ何年在学してもムダというのです。

 次にクリーンルームについて。半導体の生産には清浄度のきわめて高いクリーンルームが必要です。プリント板でも例年、不良原因の1位か2位に「異物」が挙げられており、作業環境のクリーン化が重要な課題になっています。

 クリーンルームの清浄度はこれまでクラス1000とかクラス10000などと表されてきました。この表示法は米連邦規格で、空気1立方フィート中に0.5μmサイズのゴミが何個あるかで清浄度を示しています。なお、現在はJIS(ISO)規格で1立方メートル中の個数でクラスを表すように変わっています。

 ゴミにはいろいろなサイズがあるはず。清浄度のクラスが0.5μmサイズのゴミの個数で決められても、サイズの違うゴミはどの程度まで許容されるのか、またクリーンエアはどうやってつくるのか、すこし調べてみました。

 まず、ゴミのサイズと許容数の関係。JISクラス5(連邦規格クラス100相当)は表のようにと規定されています[2]


ゴミのサイズ(μm) 0.1 0.2 0.3 0.5 1 5
許容個数(個/ft3) 2,882 670 288 100 24 1

クラス100(0.5μmのゴミが100個以下)でも、0.1μmサイズなら3000個近くまで許容され、1μm、5μmのゴミでも数は少ないながら許容されるのです。産総研の誇る世界トップクラスのスーパークリーンルーム(JISクラス3)ですら、0.5μmサイズのゴミで1m3あたり35個まで、1μmサイズで8個まで許容されています。たまたまこんなゴミが工程中の半導体ウェハー上に落ちればその部分は確実に不良になるはずです。

 次にクリーンエアの作り方。紙フィルターでコーヒーを入れたり、網で魚をとるのとは原理が違うらしい。クリーンエアのフィルターの濾紙は1〜10μm程度のガラス繊維でできており、濾紙の空隙は数10μmの大きさがあるという。この濾紙で0.5μmやもっと小さいゴミをすくい取るのです。風速が大きいとほとんどのゴミは通り抜けてしまうでしょう。そこできわめて弱い風(風速0.01〜0.1m/秒)で送る。ふらふら飛んできたゴミが網のガラス繊維にからめとられる(ブラウン運動による捕集)というのです[3]。なんだか頼りない原理ですが、このような濾紙を何段にも重ねることによってスーパークリーンルームも実現できているのです。0.5μm以上のゴミは絶対通さない濾紙(メンブレン)もあるが、目詰まりしやすい、圧損が大きすぎるという理由で、工業用には使えないそうです。

図 ゴミのブラウン運動による捕集

 以上、入学試験とクリーンルームについて書いてきたのは、その両者に類似があると思うからです。1回きりの入学試験は目の大きいざざ漏れのフィルターではないか。受かったから優秀とも、落ちたから劣るともいえないのではないか。予備校の看板には東大合格何名、早慶何名と麗々しく出ており、有名大学に合格すると、世間も人物の格が一段上がったように扱う。しかし、ざざ漏れ試験なら受かっても落ちても人物は一緒。階段を一段上がったのではなく、たまたま塀を通り抜けただけではないか。

 マスコミには、東大教授がデータ捏造を、教師が破廉恥行為を、警察官が窃盗を、など身分、立場にあるまじき行為を働いた。世も末、と嘆く言葉があふれています。どの世界にも立派な人もいればあやしいのもいる。不正はルールにしたがって裁かれなければならないが、もっとクールに扱ってほしい。「・・・ともあろう人が」とか「模範たるべき・・・」などと言ってほしくない。

 洋菓子の老舗、不二家が消費期限を過ぎた原料を使ったとしてきびしく指弾され苦境に立っています。マスコミは「ペコちゃんが泣いている」「食の安全をおびやかす」などとあおります。課長、工場長承知の上で消費期限の表示を1日長くしていたのは法律違反、それなりの罰則が適用されるのは当然。しかし、マスコミのたたき方、消費者の過敏な反応は過剰ではないか。この状況は2000年の雪印事件とそっくりです。(ただし、不二家の場合、中毒などの健康被害は出ていない)。厚労省が行政処分をするにしても、「プリンの消費期限が社内基準より一日長く表示されていた」くらいしか理由にできないという。担当官は「たとえ一日でも、期限を越えれば食品の安全性を損なう可能性がないとはいえない」と言っているとか[4]

 ドイツに在住していた友人から聞いたことがあります。ドイツで日本の食品、食材は何でも手に入るが、みんな消費期限、賞味期限切れだというのです。それでもみな買っていく。日付を見てそれなりに気をつけて食べているのでしょう。

 いま、格差社会の議論が盛んですが、格差があることより、やたら塀を設けたがることのほうが問題と思う。自分の仲間をせまく抱えこみ、周りに塀をめぐらすゲートシティです。外からは別天地に見えるかもしれない。しかしたいていの場合、内と外にたいした違いはない。単に差別のために使われていることが多いのです。正社員と派遣、大卒と高卒、ホームレスと家のある人。塀(刑務所)の中にはいろいろな「懲りない面々(安部譲二)」がいるが、外と変わらない人間社会があり、哀歓もあります。塀の外には程度の悪い連中が一杯大きな顔で歩いている。

 犯罪は目の粗い網で悪いやつから捕まえたほうがよいと思う。足りなければもう一枚粗い網をかける。どんな不正も許さんと、網をどんどん細かくし、やたらに人を塀の向こうに追いやってはならないと思うのです。


[1] 「小論文書ける=学業優秀」 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200701051300_05.html
[2] 「クリーンエアの周辺」 http://www.kobayasi-riken.or.jp/news/No17/17_7.htm
[3] 「クリーンルームの清浄度」 http://www.hello-mtj.co.jp/information/terms.html
[4] 「不二家本社の行政処分も」 http://www.saitama-np.co.jp/news01/22/02x.html


先を争っても、行き着く先はあまりかわりそうにない。

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