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JPCA NEWS 2007.5

バスタブカーブ

 90過ぎても日野原先生並に元気な先輩がいます。その一方、昨日まで国内外を飛び回っていた健康そのものに見えた友人が急に亡くなる。人は、年を取るにつれ、だんだんに衰えて死ぬのではないと、つくづく思います。「人間の生死は測りがたし」です。野生動物の平均寿命は天寿のほぼ半分だそうです。天寿に近い年齢まで生きるのは動物園の動物だけで、野生動物のほとんどは、餌食になるか、餌が取れなくなるか、病気になるかして天寿よりずっと若くに死ぬのです。人間の天寿はほぼ120歳とされるから、平均寿命を80歳とすると、天寿の75%の年齢まで生きられる計算です。野生動物に比べ、生存条件、衛生環境ともはるかに恵まれている結果なのでしょう。

 昨今、暗いニュースがつづき、世の中、どんどん悪いほうに向かっているように思う人も多いでしょう。マスコミはとかく暗いニュースを強調し、刺激的に報じます。ほどほどに聞いておればよいが、あまり真に受けると、世の中全てが悲観的に見えるのではないかと思います。

 世界主要国の平均寿命の推移を見て、どの国もほぼ一様に寿命が伸びているのにおどろきました[1]


表1 世界の平均寿命とその伸び(男性)
寿命(男性) 日本 アイスランド フランス イタリア イギリス アメリカ ドイツ
平均寿命1) 77.8 77.9 75.2 76.5 75.4 74.0 75.1
伸び(年) 2) 8.6 6.9 6.7 7.7 6.9 6.9 7.9
伸び率(%) 3) 11.1 8.9 8.9 10.1 9.1 9.3 10.5
1) 平均寿命は2000年時点、2) 寿命の伸びは対1970年比、3) 伸び率は30年間分

 人類がこの地球に誕生して300万年以上という。以降、人類の寿命は徐々に伸びてきたでしょうが、たった30年で平均寿命が10%ほども伸びるとは驚異です。突然変異でも起きない限り、ホモサピエンスの天寿が10%も伸びるわけがない。素材としての鉄やコンクリートの強度が簡単に変えられないように。人間も野生動物と同様、いろいろな制約条件が重なって天寿を全うするのはむずかしい。どの国でも(表はすべて先進国ですが)この制約条件が年々改善され、それが寿命の伸びにつながっているのでしょう。あるインタビューで、苛酷な運命に翻弄されたおばあさんが、「どの時代がよかったですか」の質問に、「今がいちばんいい」と答えたのが印象的でした。わたしたちは今が、多くの難問を抱えながらも、過去の歴史を通じて、もっともいい時代であると認めたうえで、問題に立ち向かいたいと思うのです。

 参考書で信頼性の項を見ると、故障率のバスタブカーブがよく出てきます。(図1)。部品や装置の故障率(一定時間あたりの故障度数)を、使用時間を横軸にプロットするとバスタブ(洋式浴槽)の断面形状に似た形になるというのです。。

 使用初期には故障率が高い初期故障期がある。使用しているうちに故障率は下がってきて、低い水準で安定するようになる。この時期は偶発故障期と呼ばれ、故障は散発的に発生する。ただし故障原因の特定や発生の予測はむずかしい。使用がさらに進むと、装置を構成する部品や材料の劣化や磨耗、疲労による故障が発生するようになる。この期間を磨耗故障期という。この期間は、ある程度故障の予測が立つので予防保全も可能になる、と説明されています。

図1 バスタブカーブ

 このカーブは、人間の死亡率の推移と似ているので、3つの期間を幼年期、青壮年期、老年期と呼ぶことがあります。うまい対応付けです。

 バスタブカーブは例えがおもしろいので、ついほれ込んでしまいますが、現実の故障率パターンを正しく表現しているでしょうか。

 初期故障期と磨耗故障期はわかるが、偶発故障期がわかりにくい。この期間は「特定の原因で死ぬことはまずない」が「運悪く弾に当たれば死ぬ」、起こるのは「不慮の死」だけとしています。偶発故障期1年目の製品にも、10年目の製品にも弾は同じ確率で飛んでくる。したがって1年目、10年目の製品間に故障率の差は生じない、という理屈です。製品の耐用寿命は、一般に偶発故障期の長さでとられており、信頼性工学でもこの期間を対象に、フェイルセーフやシステム多重化などの理論が構築されています。

 「もう平均寿命を越えたし、先は長くない」と心細いことをいう人に、筆者は、「あと5年は大丈夫。そして5年間何事もなければ、また5年は生きられますよ」と返します。これは偶発故障を頭において、見当で言っているのです。最近の平均余命、年齢別死亡率の統計をみてみました。


表2 年齢と平均余命(男性)
年齢 60 65 70 75 80 85
平均余命 22.1 18.2 14.5 11.2 8.4 6.1

 表から、80歳のひとの平均余命は8.4年、平均的には88.4歳まで生きられることがわかる。この人が85歳になったとき、88.4歳まであと3.4年しか生きられないのか。そうではなく、あと6.1年は生きられることを示しています。筆者の「5年生きられたら、また5年」も当たらずとも遠からずです。

 図2は年齢別死亡率のグラフです[1]。図1のバスタブカーブとは形がぜんぜん違う。全体グラフでは幼年期の山が見えないので拡大してみると、0〜5歳児のところがわずかに高くなっています。死亡率がバスタブカーブの形だったのは、乳児死亡率が高かった昔の話で、今は先天性異状(奇形、染色体異常等)さえなければ、生まれた赤ん坊はほとんどが育つのです。偶発故障期(青壮年期)はどこにあるか。死亡率は15歳位から上がり始め、一貫して上昇しつづける。老化は早くも15歳位からはじまるようで、図1にあるような死亡率が安定する偶発故障期(青壮年期)は見えません。

図2 年齢別死亡率

 半導体メーカーは各社立派な信頼性ハンドブックを出し、信頼性の概念やその品質保証法について詳しく記述しています。どれにもバスタブカーブが出てきますが、偶発故障期の説明はいまひとつ明快でない。

 三菱電機の資料には「偶発故障 は、製品固有の信頼度と言ってよく、その水準は設計によって決まり、この期間において安定化する。・・・偶発故障期の不良率低減のためには、設計段階での品質管理活動及び形式試験(寿命試験、環境・機械的試験、耐量試験、 等による耐久評価)等を実施し設計検証を実施しています」とある[2]

 ソニーのハンドブックでは「近年では、ソフトエラーを除くと本質的な意味での偶発故障は存在しないという考え方に変わりつつあります。本質的には初期故障と摩耗故障のみが存在し、その間の時間は、各々の故障の分布のすそで構成され、初期故障要因、摩耗故障要因に対して改善を行うことで、その間の故障率も低下させることができる。」としています[3]。ソフトエラーは、電源、グラウンドから入ってくるサージ(過電圧)や、パッケージや配線材料中の微量のウランやトリウムなど放射性物質から放射されるα線により引き起こされるものです。これはまさに弾が当たって起こる故障です。それ以外は、初期不良の右のすそ野と磨耗不良の左のすそ野がオーバラップして、見かけ上フラットな故障率を示すのだという考え方が出てきているのです。

 いずれにせよ、偶発故障はたまたま運悪く発生する故障とあきらめず、その内容を詳細に分析して対策を立てる辛抱強い取り組みが必要なのだと思います。

 図3は年齢別死因の構成です[1]。20〜50歳の、まさに青壮年期にある人の死因で自殺が一番多いのにショックを受けました。不慮の事故(交通事故など)ならまだしも、自殺を偶発故障と簡単に片付けてはなりません。

 筆者は、プリント板は本来信頼性の非常に高い製品と信じていますが、出荷検査で検出できない、また何年も経ってから顕在化する潜在不良項目が多いと感じています。地道な潜在不良の押さえ込みが、みかけの偶発故障を引き下げることになるでしょう。

図3 年齢別死因の構成


[1] 厚生労働省「日本人の平均余命」 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life04/
[2] 三菱電機「半導体信頼性情報」 http://www.mitsubishichips.com/Japan/reliability/index.html
[3] ソニー「半導体 品質・信頼性ハンドブック」 http://www.sony.co.jp/Products?SC-HP/tec/catalog/pdf/qr_4.pdf


一般スギの寿命300年。樹齢6000年ともいわれる縄文杉は5000年以上老年期を生きている。

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