
JPCA NEWS 2007.9
スペックとスタンダード
|
ある会社から相談を受けました。輸入した装置のプリント板のソルダレジストが局部的にはがれていて、納入先からクレームが付いた。メーカー(アメリカ)に文句を言うと、IPC規格(IPC-A-600プリント板の合否基準)に適合しているから問題ないという。日本の規格ではどうなっていますか、との質問です。 そこで再度IPC、JIS、IEC規格を読んでみました。あらためて認識したのは、JIS規格の規定のあいまいさです。かつてJIS(日本工業規格)には権威がありました。工場の正門には「JIS認定工場」の札が下がっていたものです。政府お墨付きの仕様、品質の製品を作っています、という誇りのシンボルだったのでしょう。今もJISの認証制度はあるのにJIS認定の看板は見かけません。応接室に「ISO9000認証」の額がかかっていても。 今年5月、大阪の遊園地「エキスポランド」でジェットコースターが脱線し、20人が死傷しました。その事故で、同園がJISで定めた車軸の探傷試験を行っていなかったことが問題になりました。同園の説明では、毎年コースターの定期検査で探傷試験もやっており、昨年も行った。今年は試験場所が確保できないため試験を延期した。今までやっていた探傷試験は自主的な試験で、JISで年1回以上の探傷試験が定められているとは知らなかった。 これはどこにでもありそうな話です。筆者がまず疑問に思ったのは、そもそも現場で行う自主的な探傷試験で車軸破断の兆候が簡単に見つかるものか。金属の疲労破断は破断面を専門家が精細に調べて判定するもの。今回の破断個所は車軸端のナット締め付け部です。破断前に予兆をつかむのはまず無理と思います(地震予知やプリント板のマイグレーション進行を測るのが困難なように)。実際、ジェットコースター設置して15年、毎年一応の検査をしても、車軸の交換は一度も行われていなかったといいます。何の不具合も見つかっていなかったのです。マスコミのいうような、JIS通りに1年以内の探傷試験をやっておれば防げたはずの事故とは思えません。 もう一つの疑問は、JISに規定されている内容は誰もが守らなくてはならないものなのか、ということです。そもそもJISは法律と同様に拘束力がある(守らないと罰則がある)ものなのか。 日本工業標準調査会によれば、「標準化(Standardization)とは、『放っておけば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう事柄を少数化、単純化、秩序化すること』。標準(=規格:Standards)は、標準化によって制定される『取決め』と定義できる。標準には、強制的なものと任意のものがあるが、一般的には任意のものを「標準(=規格)」と呼んでいる。」とあります[1]。規格と標準は同じ意味で、一般には強制的なものではない(拘束力がない)ようです。 現在のプリント板の規格はJIS、IPC、IECともルーツは米軍規格MIL-P-55110です。この規格のタイトルは「プリント配線板仕様書(Printed Wiring Boards, Specifications for)」です。米軍規格には他にデザインルールの標準MIL-STD-275(現行IPC-2221に同じ)もありますが、こちらはStandard。どうやらスペック(Specification、仕様書)は拘束力のある「強制的な標準」であり、軍用のプリント板はスペックMIL-P-55110に準拠しなければならないが、デザインルールの標準MIL-STD-275は「任意の標準」であって強制はされない規格のようです。 これでJIS規定があいまいな理由がわかりました。JISは、それ自体では仕様書でないのです。購入仕様書等に「JISの・・・項の規定を適用する」と記載されてはじめて強制力(拘束力)のある規定になるのです。ジェットコースターのJISで年1回以上の探傷試験が定められているとしても、それを適用することが行政、監督機関から義務付けられていない限り強制力はないのです。そしてJIS自体は(IPC、IECも)どんな用途、要求にも対応できるよう「技術的にリーズナブルである限り」幅広い規定を盛り込んでいるのです。 JIS C 5014 「多層プリント配線板」には「プリント板のパターンの微細度及び品質を表す等級」が次のように規定されており、個々の項目ごとに必要な等級を選択、使用する、とされています。
クラスT 通常のレベルが要求されるもの。 筆者は最初これを見て「何だ。これが規格か」と思ったものです。今ではその融通無碍にならざるを得ない事情が理解できます。規格は強制力のある購入仕様書を作成するための幅広い選択肢を提供しているだけなのです。一方、プリント板の米軍規格MIL-P-55110は仕様書であり規定は明快です。全ての項目について仕様、性能が一義的に決められており、それにすべて適合することが求められます。 JIS等の規格で選択肢が多いのは自由度が高くて良いようですが、選択の責任は購入仕様書の作成者にゆだねられていることを忘れてはなりません。プリント板のデザインルール項目や品質特性はそれぞれからみ合っていて、あちら立てればこちらが立たずの関係になっているものが多い(例えば導体幅と導体間げき)。購入仕様書の作成者には購入するプリント板の用途やメーカーの工程能力を考慮して、全板厚はクラスT、穴位置許容差はクラスV、仕上がり導体幅はクラスUなどと項目ごとにクラスを指定しなければなりません。しかしそんな仕様書は見たことがない。どのプリント板ユーザーにもこんな指定を適切にやれるエキスパートがいるとは思えません。 JIS C 5014「多層プリント配線板」にはソルダレジスト欠陥について「実用上有害なかすれ、はがれ、ピンホール及び異物の混入があってはならない」とだけ規定されています。しかし、どこまでが「実用上有害な欠陥」なのか、誰がそれを判断するのかが書いてない。汎用規格だからやむを得ないにしても、もう少し具体的であったほうが良いのではないか。
IEC規格(IEC 2326-4)のほうがまだ具体的です。 と微妙に区別しています。ソルダレジストは絶縁塗膜と考えるユーザーがいますが、通常のソルダレジストにはたいていピンホールが存在します。そして微小なピンホールがあってもソルダレジストとしては十分機能する(ピンホール中にはんだが入らないから)。ユーザーが絶縁塗膜として使用したい場合は、購入仕様書に明確に指定し、メーカーはピンホールのない塗膜を形成できる材料、工程を選択しなければなりません。 筆者はその昔、高高度を飛行する航空機用プリント板の絶縁確保に苦労しました。高所で空気が真空近くまで薄くなると、プリント板の絶縁耐力が極端に低下するのです。導体間げきが1mmあっても500ボルトでグロー放電が起こり、火花が飛びます。ソルダレジストを何層に塗り重ねてもだめ。それが輸入した絶縁用のエナメルに変更するとグローや火花がぴたりと止まる。もちは餅屋と感心しました。 IPC、IEC規格にも性能別クラス分け(クラスA、B、C)があります。前述の輸入品品質に悩む会社の人は、「仕様書で一段高いレベルを指定すれば欠陥のない品が入ってくるでしょうか」という。筆者は「それは多分期待できないでしょう。こんな欠陥はどのクラスで見ても不良。問題は仕様書にあるのではなく、メーカーの製造能力、検査体制、意識にあるのだから、まずメーカーを見直すことでしょう。また合否を決めるのは規格ではなく仕様書です。貴社のニーズに合った仕様書を作ってください。」と答えました。 |
|
||
|
||
| 規格品は扱いやすいが取り柄。味は規格外品にある。 | ||
JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号 |
||
|
|
||
|
社団法人日本電子回路工業会 JPCA-Japan Electronics Packaging and Circuits Association |