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JPCA NEWS 2007.12

PID制御と気の持ちよう

 どんより曇って肌寒い日が2日つづきました。1日目、どうも体調がよくない。だるい、肩がこる、頭も重い。何をする気にもなりません。若い頃から天気の悪い日は気分が落ち込むことを経験していました。こんな日はじっとしているしかないと1日中ごろごろしていました。

 次の日も似たようなうっとうしい天気。しかし気分が全然違う。体は軽いし、何かやろうという意欲もある。久しぶりに出掛けようか、あれをやらなければ、これもしたいと。1日たってこんなに変わるのはバイオリズムによるのかと思っていたら、友人が、昨日は絶不調だったけど今日は快調と同じことを言う。2日とも天気は悪いのに体調がこうも違うのはどうしてかと考え、ひとつ思い当たりました。前日は天気の下り坂、次の日は天気が回復に向かっていたのです。ヒトの体は天気の現在の状態だけでなく、下り坂か上向きかにも反応するらしい。

 朝、山小屋を出るとき、午後は晴れとの予想なら、雨の中を出て行くのも苦にならないが、今晴れていても午後から雨の予報だと気が重い。これは心理的な反応と思いますが、生理的に体調に影響するとしたら不思議です。視覚には対象の「動き」を検出する視覚野が脳内にあるそうです。脳には天気の「変化」を検出する部分もあって、それが体に「ここは動くな」などと指令をだしているのでしょうか。

 自動制御の方式にPID制御という手法が広く用いられています。一番簡単な制御方式はオンオフ制御です。電気こたつでいうと、温度が設定温度を超えたらスイッチを切る、温度が下がればまたスイッチを入れるという方式です。この方式は単純ですが温度が上下にふれやすい欠点があります。それを改善する方式として古くから実用化され、今も多くの装置に採用されているのがPID制御です。この制御法は以下に説明するP、I、Dの3動作の比率を適切に組み合わせて、制御対象(上の例では温度)の変動をできるだけ小さく抑え、かつレスポンスをできるだけ早めることを目的にしています。

 P動作は比例動作(Proportional)で、温度が低いときはフルに加熱し、設定温度に近づくとヒーターのワットを下げて、温度の変動(オーバシュート、上下変動)を抑えるという動作です。欠点は温度が設定値近くになるにつれてヒーターのワットを下げるため、例えば外気温が下がってくるといつまでたっても部屋の温度が設定値まで届かないことになります。実際温度と設定温度の解消できないズレの大きさをオフセットといいます。

 I動作は積分動作(Integral)で、ズレの値を時間的に積分してヒーターの容量に追加します。わずかなズレでも積算すると大きくなるので、徐々にオフセットを解消する方向に働くのです。通常P動作と組み合わせて、PI動作として使用します。

 PI制御により、変動が少なくオフセットのない制御が可能になります。しかし急に制御対象が変化したときにはPI動作だけでは応答が遅くなりがちです。それを改善するため、制御対象の変化が速いときには是正アクション(ワット数等)を強め、遅いときは弱めるという動作を加える動作が考案されました。これがD動作で微分動作(Derivative)とも呼ばれます。

 デジタル時代の今日、制御技術もアナログ式のPID制御では考えられない高度なデジタル手法が考案されています。クルマを100メートル先の目標地点に速く到着させるのに、クルマを全速で走らせ、目標地点の何メートルか手前でいっぱいにブレーキを踏む方法が考えられます。PID制御ではこんなことはできませんが、デジタル制御では容易であり、パラメータを最適に設定できれば、目標地点に最速でピタリと停められます。ただしパラメータの設定が最適値からすこしでもずれると、目標地点に届かなかったり、オーバランしたりする。PID制御ではこんなことは起こりません。

 工場設備の8割方は今もPID制御といわれていますが、筆者は社会や歴史あるいは人の行動を理解する上でも使える考え方ではないかと思っています。

 歴史上の出来事にPIDのパターンを見るおもしろい文章があったので紹介します[1]

 「P要素は人間の行動に対応させると現状対応が相当する。同様に、I要素は経験に基づく行動、D要素は予測に基づく行動に対応させられる。PID制御は人間が現状、経験、予測の三つを組み合わせてものごとを判断し行動するのと似ている。」とし、戦国時代の武将たちの役割を解釈しています。

 「戦国時代,わずか8年の間に,信長,秀吉,家康3人が誕生し,幾多の戦いを経て,日本が統一されていった。・・・日本統一のスタートポイントを信長が,一地方大名からその存在を大きく示した桶狭間の戦いとして考えてみたい。

 信長,秀吉,家康の3武将が支配していた領地の面積を「統一度」という尺度で表し,戦国時代の日本統一を年代とともに示すと図となる。3人の武将の活躍により支配する領地は拡大を続け朝鮮出兵という,目標を超えてしまう現象(オーバーシュート),その反動にともなう落ち込み(アンダーシュート)を経て,最後に300年という安定な徳川15代政権を作っている。

 日本統一のプロセスの中で,3人の武将はどういう働きをしたのだろうか。信長は立ち上がりに貢献したが志半ばでいなくなり,その後秀吉は,その勢力を日本以上に拡大しようとしたが,完全な日本統一はできなかった。家康は,前2者が活躍している間はじっと力を貯え,最終的に江戸幕府300年の長期政権を築いた。このように3人の武将の総合力によって荒廃していた戦国時代の日本統一がなされた。

 読者の推察されるとおり、PID制御におけるP、I、Dの動作を秀吉,家康,信長が日本統一という大きなステップ状目標に対して演じたのである。・・・最初の立ち上げを信長が制御理論でいうD的役割を演じ、次に目標近くまでの統一を秀吉がP的役割を、その後に家康がI的役割を演じて日本統一を達成し、長期政権を維持していった。・・・  大きな変革を起こし,その変革を成功に導くためには制御で言うD動作を行う人物、P動作を行う人物、I動作を行う人物が関連しており,それらがバランス良く貢献することが必要と思う。D的人物が最初の立ち上げを,P的人物がほぼ目標達成まで,最後にI的人物がきちんと力を貯え長期的な安定を保つことを意味する。」

 その昔、天気予報のなかった頃は、朝焼け、夕焼けにその日、翌日の天気を読みました。いまでは出かける一週間前から天気予報を気にして、一喜一憂しています。どの時代でも人より早く世の中の動きを読んで行動するD的人物によって新しい事業が興されます。変化の速い今日、D的人物への期待が高まりますが、それは天才、異能の人であり、革命家ともいえます。どこにでもいる人ではないし、教育して育つものでもありません。社会としてできるのは、突然変異で生まれたD的人物を世間がつぶしてしまわないで生かしておき、好きにさせる度量と仕組みだけでしょう。

 PID制御で、各動作の重みの付け方は微妙で、レスポンスを早めるためにD動作の比重を大きくするとシステムが不安定になり、I動作を強めると社会情勢の変化への追従が遅れます。小泉内閣の改革はD動作が勝っており、福田内閣の地方再生、格差是正はI動作寄りといえるでしょう。

 日本ではマスコミにあおられて、時代の変化に取り残される、年金が、病気が、食品が心配と先行きに不安、将来に希望が持てないという人が多いようです。将来に悲観的な中学、高校生が外国の子どもにくらべてずっと多いそうです。筆者は今の日本人はD的思考が強すぎる、先のことを考えすぎると思います。国の安定の基本はP(現在)とI(歴史)であり、それについて日本はどの国に比べてもひけをとらないでしょう。将来は誰にもわからない、不安はあるが希望もあるはずです。

 心がけたいのは、明るい予測は信じる、暗い予測は無視するか軽く見るという「気の持ちよう」です。天気の悪いときには、待てば海路の日よりあり、今日一日どう過ごすかだけ考える。たまたま手にした本に「『わたしにはできる。なんとかなるさ。きっとやってみせる』を『口ぐせ』にしているとそれは実現する」、また「思い出すのは『いいことだけ』」とありました。感心したのは「究極の口ぐせは『これでいいんだ』。この一言だけで人生はだいたいうまくいく。」という一節でした[2]


図1: 戦国時代の日本統一のプロセス

[1] 大前 力「PID制御で歴史を読む」
http://www2.chuo-u.ac.jp/tise/kyouyou/4ohmaet1997080/index.html
[2] 佐藤富雄「運命は『口ぐせ』で決まる」(三笠書房2004/12)

兼六園 160年かけて完成、170年の風雪に耐え、その調和を保つ。

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