
JPCA NEWS 2008.1
ヒステリシスとバックラッシュ
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高齢者は1日に3人は家の人以外の人と話したほうがよい、といわれます。筆者もそれを心がけていますが、簡単ではありません。知らない人にむやみに話しかけると不審者扱いされかねません。 そこで、筆者は散歩の途中、庭先につないであるイヌやばったり出くわすネコと対話します。これがなかなかおもしろい。 ネコとにらめっこします。向こうはじっとこちらを見つめる。こちらも目をそらさず見つめ返す。40秒ほど経つと、ネコは落ち着きがなくなり、ちょっと横を向いたり、片足を上げてひっかくそぶりをしだします。さらに2分ほど見つめるのを止めないと、ネコはやおら顔を横に向け、ゆっくりと茂みの中に入っていきます。先日対面したネコはじっと見つめ合ううち、そろそろとこちらに向かって歩きだし、筆者の足元に体を摺り寄せてきました。 田舎のイヌはよく吠える、は筆者の説です。自分の縄張りを広く主張しているのでしょう。散歩途中に必ず吠えるイヌがいます。毎回、同じパターンで吠える。 図1は吠えるパターンのイメージです(いずれ実測したい)。遠くからイヌに近づいていきます。イヌはこちらが目に入っても関心は示すがすぐには反応しない。10メートルくらいまで近づくと唸りはじめる(A点)。3メートルくらいに入るとイヌはけたたましく吠えだす(B点→C点)。イヌから遠ざかっても、イヌはいつまでも吠えつづける。20メートル以上、ほとんど見えなくなるくらい遠ざかってやっとイヌは吠えるのを止める(D点)。一方、吠えはじめる手前(E点)で引き返すとイヌは唸るだけで、吠えることなく平静にもどる。 |
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| 図1 イヌの吠えるパターン |
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鉄心にコイルを巻き、電流を流すと鉄心が磁化されて電磁石になります。流す電流を増やすと磁石の強さ(磁束)は増すが、増加の割合は電流に比例しません。その関係をプロットすると図2のようなループを描きます。磁束が最大(飽和)になるまで電流を上げてから、電流を下げていっても磁束はすぐには下がらず、電流をゼロにしても鉄心の磁束は残る(残留磁化)。残留磁化を消すには電流を逆方向に流してやらなければなりません。これがヒステリシスループですが、イヌの吠え方のパターンもそっくり同じです。 |
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| 図2 磁性体のヒステリシスループ |
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次に歯車の話。今、若者にメカ時計が人気です。正確さでは1000円のクオーツにかなわないのに100万円もする機械式にあこがれる理由が筆者にはわかりかねますが、メカ時計の動きは見ていてたのしい。ふたを開けるとチチチチと細かい歯車群が生き物のようにリズミカルに動いています。 昔、並みの時計は1日2分くらい狂った。几帳面な人は毎日時報を聞きながら時計を合わせました。時計が進む場合はリューズを使って針を逆方向に戻すのですが、そのときちょうど2分戻すのではなく、5分くらい戻したあと3分ほど進めて時間を合わせるよう教えられたものです。これは歯車を逆に回すと、歯車同士の噛み合いが微妙に変わって、時計の動きがスムースでなくなるためです。時計に限らず、実際の機械に使われる歯車には歯と歯のかみ合いに若干の余裕(すきま)をもたせています(図3)。同じ方向に回っている間は、すきまは歯車の動きに影響せず、スムースに回転しますが、逆転させるときにはこのすきまで歯の当り面が替わるためガタンとショックが生じるのです。これを「バックラッシュ」といいます。バックラッシュは機械のガタですが、なぜわざわざガタをもうけるのか。それは歯車では歯同士がこすり合いながら回っているからです。 2つの金属がじかにこすり合うと磨耗や「かじり(焼きつき)」が生じるのです。かじりは摺動面に生じた摩擦力で互いの金属がかみあうように塑性変形して起こります。やわらかい材質や、両方同じ材質の場合に発生しやすい。対策としては硬い材料とやわらかい材料を組み合わせる、潤滑油、潤滑剤を介在させるなどの方法があります。電車の架線は硬い金属とし、パンタグラフはやわらかい材料にしてあります。電車の走行でパンタグラフは磨耗しますが、架線は長持ちするようになっているのです。 |
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| 図3 バックラッシュ |
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以上、ヒステリシスとかバックラッシュなど物理やメカの理屈っぽい話をしてきましたが、これら用語の解説をするためではありません。ヒトも動物も物理的な存在であり、個人のしぐさや態度、考え方だけでなく、組織の行動にすら物理的な法則に支配されていると思うからです。マスコミでは毎日凶悪事件や悪質犯罪が報道され、その犯人探し、背景、犯人の生い立ち、育った環境などが、識者によってもっともらしく分析されています。大方は文化的、歴史的な視点に立った議論です。しかし人は文化的、歴史的な人である前に、動物としてのヒトであり、物理的な物体であることを忘れてはならないと思うのです。 ヒステリシス現象はいたるところに見られます。およそ「記憶」と名の付くものはすべてヒステリシス現象によるといえるでしょう。筆者も昔ぜいたくと思っていた毎朝のコーヒーも、いまではコーヒーなしには一日がはじまりません。革命家ゲバラは山中のゲリラキャンプにあってもコーヒーが忘れられず、集落を夜襲して手に入れました。 誰でも気に入らないことがあると頭にきます。それは自然の情。それを抑えて表に出さなければ、そのうち何事もなかったように平静に戻れます。それが抑えられないとイヌと一緒のヒステリシスループに落ち込んでキレル状態になるのです。怒りはますます募って、血があたまに上る。「ためしてガッテン」で、どうにもならないと思える怒りの感情を生理的反応としてとらえる番組はおもしろかった。キレを個人的な性格、生まれつきなどで片付けないところがいい。脳の扁桃体から怒りのホルモンが分泌され心拍数や血圧が上がる。それを脳が察知すると怒りはさらに増幅するという「正のフィードバック」が働くという[1]。そして修行すれば、脳の別の部位「理性の脳」からの「言い聞かせ」により怒りのエスカレートを鎮めることができるといいます。 同種の金属をこすり合わせると「かじり」が生ずる関係は、性格の違うもの同士でコンビを組んだほうがうまくいくといわれるのに通じるようです。漫才のボケとツッコミもそうです。「かじり」を防止するには「すきま」(バックラッシュ)をもうけ、潤滑油を通すのが有効です。これは堅い人同士の間に入って二人の仲を調整する仲裁者に相当するでしょうか。 筆者は、歯車への給油や歯車同士のかじり防止に「すきま」は必ず必要と思っていました。ところが12月のセミコンショーで「バックラッシュゼロのウオーム減速機」というのが出ていて興味を持ちました。そんなものがつくれるのかと。説明を読んでおおよそを理解しました[2]。簡単に言えば、歯車の歯1個1個を全てボールベアリングにし、ギアの歯をすきまゼロにきっちり押し込み、すべりなしの転がり接触で力を伝えるのです。従来減速機の数倍の位置決め精度と500万回の繰り返し耐久性を持つそうです。 既存技術の組み合わせでない新しい要素技術の開発が着実に進められていることを心強く思いました。やはり日本は要素技術でがんばらなくては。 |
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| 若い夫婦の初詣。世は移りながら変わらないならわし。 | ||||
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