JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号

JPCA NEWS 2008.2

軟弱な地盤

 幼い女の子が自分の背丈ほどのぬいぐるみを大事そうに抱えてお買い物に来る。やっと歩けるようになったばかりの男の子がワンワンや電車に異常な関心を示す。同じ哺乳類なのにイヌ、ネコにはこんな反応は見られません。鏡を見せてもぜんぜん反応しない(サルはテレビで癒されるようですが)。

 子どもは成長して興味の対象が広がると、汽車、電車への思いはうすれてきますが、大人になってもずっと熱い思いを持ちつづける人がいます。JR全線を乗り尽くしたり、1駅分のキップで一日中電車に乗ったりする人も多い。筆者も乗り物は好きです。初めて乗る路線では先頭車両の先頭に立って周りの景色を眺めたり、運転手の操作を見たりしています。駅名にも由緒ありげな名前があっておもしろい。

 山歩きやウォーキングの仲間には汽車も好きな人が多い。いま仲間内には中国の青蔵(せいぞう)鉄道に乗ろうという話が出ています。この鉄道は中国青海省のゴルムドとチベット(西蔵)のラサを結ぶ全長1142キロの鉄道で、2006年に開業しました[1]。そのほとんどは海抜4000メートル以上で車窓からは青海・チベット高原の神秘的な自然が見られるとあって世界的に大人気で、NHKでも放映されました。

 東京・小倉間に相当する鉄道をたった5年間で建設したというからすごい。さすが万里の長城を造った国です。工事現場は最低気温零下45度、酸素は平地の50%というきびしい環境で、作業者は重さ5キロの酸素ボンベを背負って作業したそうです。

 技術的な挑戦は区間の8割を占める不安定な永久凍土の上に線路を敷設することです。永久凍土とは夏になっても融けることのない凍った大地で、深さは何百メートルにも達するとか。それでも夏場には表面の0.6〜4メートルが融けて体積が収縮します。冬場になるとまた凍結して膨張する。その様子は霜柱の立つ地面のようなものでしょうか。朝のうちは霜柱をザクザクと気持ちよく踏んで歩けますが、日が差してくると一面ぬかるんで靴はどろんこ。深さ60センチもぬかるんだら足をとられてとても歩けない。そんな地面に線路を敷いて汽車を走らせるのです。シベリアなど高緯度地域には永久凍土上の鉄道もあるが、日射が強い低緯度帯にこんなに長い距離を走る鉄道はありません。

 青蔵鉄道では永久凍土を安定化させるために、レールの周囲にアンモニアを通すパイプを埋め込み、鉄道と凍土の間には小石をたくさん敷設して凍土の確実な凍結を維持するようにしているとのことです。しかし、シベリアでは今、永久凍土が急速に融解し、牧草地が水没したり、道路が崩壊していると報じられています[2]。青蔵鉄道でも、地球温暖化が進む中、永久凍土上の線路が大丈夫かと一番心配されているようです。青蔵鉄道に乗りたいという友人は、「早く行かないと壊れちゃう」と冗談を言っています。

 永久凍土でなくても、地盤の弱いところはたくさんあります。昔は山沿いの地盤のしっかりした場所を選んで家を建て、湿地や沼地は避けてきました。大型の宅地造成では山や斜面をけずり、谷に埋めて平らな宅地を造成します。削ってつくった地面を「切土(きりど)」、埋めてつくった地面を「盛土(もりど)」といい、盛土部分は軟らかいので、建物の配置はできるだけ避けたい。また、盛土が軟弱な場合は固い地盤まで杭を打って基礎をつくったり、地盤を改良して安定化させるといった方法をとる必要があるとされます。

 しかし、軟弱な地層が厚かったり、地盤の改良がむずかしい場合、どうするのかと疑問に思っていました。ニューヨーク、マンハッタンの高層ビルは強固な岩盤の上に建っていると聞きます。それに比べて、東京の下町は深い軟弱な地盤。こんなところに超高層ビルがよく建てられるものです。それも、地下深いところにある固い地盤(支持層)まで杭を打って支えるのではなく、軟弱な地盤の中途までの杭で支えているというのでおどろきます(図のパイルド・ラフト工法)[3]。水あめのつぼに落としたスプーンがゆっくり沈んでいくように、建物はゆっくりながら沈下するものらしい。建物は多少沈んでも、傾いたり、床面がでこぼこにならなければよしとされるようです。関西空港では開港1年目に沖積粘土層が6メートルも沈下して、その後落ち着き、その下にある洪積粘土層(通常これが安定な地盤、支持層とされる)も沈下し、開港以来10年で3メートルほどに沈下し、沈下量は落ち着きつつあるものの、2007年にも7センチほど沈んだということです。どうも地球上に安定な大地などというものはないようです。


         杭基礎                    パイルド・ラフト工法

 筆者は永久凍土上の鉄道線路のことを読んでいて、これはプリント板上の導体の密着問題と通じると気づきました。セラミックプリント板は頑丈な基礎(セラミック)の上に導体が形成されています。はんだ付温度くらいではびくともしません。有機材料によるプリント板でもポリイミド樹脂など高耐熱性の基板を用いるものははんだ付温度に十分耐えるはずです。しかし汎用材のガラスエポキシ基板は本来はんだ付温度(220〜40℃)には耐えられない材料です。ガラス転移点は150℃前後であり、200℃ではかなり軟化して、導体の密着も弱くなる。部品に力がかからないようにし、はんだ付作業を数秒間にとどめることで、かろうじて大きな損傷なしにはんだ付ができるのです。また、層数の多い多層板で、はんだ付温度で発生する欠陥は最外層か2番目の層に集中します。はんだ付時、プリント板の外層の温度は上がっても内部の温度はあまり上がらないからです(それで板全体の寸法が保たれている)。

 はんだ付の際、表面のエポキシは永久凍土の表面が融けかけた状態であり、上に載っている導体は軟弱地盤上の建物と一緒です。軟弱ながらかろうじて導体を支えているのです。銅はくの粗化面は建築基礎の杭に相当するでしょうか。ただし粗化の山もパイルド・ラフト工法と同様、固い基礎までは届いてはいない。本来軟弱な密着力をそれなりに安定させ、向上させるにはさまざまな技術と管理が必要です。試験評価を行っている人の話では、高温時の銅はくの密着力には積層板の銘柄間に明らかな差があるそうです。

 最後に古紙の偽装について。古紙の公称配合率40%が実はゼロ、100%が7%、等々。業界そろってこれだけ堂々と偽装が行われたのにはおどろきました。ある社長は「食品の偽装とは違って、契約よりも、かえっていい品質のものを作っていた」といい、10年も偽装をつづけた会社の社長は「大半はきちんとしている。進退にかかわる問題ではない」とうそぶき、他の社長も辞めないという。みんなで渡ればこわくない、を地でいっている。事情はいろいろあるようですが、堂々とうそを言い、それを正当化する姿勢が許せないと思います。

 筆者は以前にも本欄で「ウソ」について書きました。社会のシステムは約束事で成り立っている。みんなが自分の分担をきちんとこなしてこそ社会は機能する。ただし、約束どおりにできない場合がある。間違うことも、できの悪いこともある。しかし、これらは統計解析の対象になり得るし、対策の立てようがある。不良が出るのならば、余分に仕込む、故障にはバックアップを用意する、など。しかし、故意のウソは始末が悪い。予測、対策が立たない、とこれまで考えていました。

 しかし現実にさまざまな偽装があり、多かれ少なかれ人はウソをつきます。どうして社会が破綻をきたさないのか疑問に思っていました。最近、ゲームの理論などを読んで、ようやく自分なりの理解ができるようになりました。ウソにより人は1回はだまされます。しかしウソが重なると次第に人はそれを信じなくなるのです。

 社会には弱いながらも復元力があって、偽装、ウソに抵抗し、いずれ排除する機能が備わっているようです。軟弱な地盤に打った短い杭でも弱いながら効くように。


[1] 「多くの世界一を記録 青海チベット鉄道」
http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/xwdt/t216779.htm
[2] 「シベリア:永久凍土が急速融解」
http://mainichi.jp/select/today/news/20080119
[3] 「パイルド・ラフト基礎工法」
http://www.takenaka.co.jp/news/pr0402/m0402_03.html
[4] 「関西空港沈下への取り組み」
http://www.kiac.co.jp/tech/sink/sink1/index.html

沈み込む足元によろけながら雪原を行く父娘

JPCA Home / Back / Menu / 前号 / 次号

社団法人日本電子回路工業会
JPCA-Japan Electronics Packaging and Circuits Association